まちづくりを提案する


日本公共政策学会 

「学生政策コンペ」

 齋藤ゼミでは、学生自身が考えたまちづくり提案の発表の場として、日本公共政策学会と各地方自治体が毎年開催する「公共政策フォーラム」における「学生政策コンペ」に2012年から参加しています。この「学生政策コンペ」には、全国から多くの大学が参加することもあり、普段はあまり接する機会のない他大学の学生との交流の場となっています。

 約1年間に渡る準備作業では、学生自身が主体的に取り組むことはもちろんのこと、ゼミ生同士の協働が必要不可欠となります。予定通りに作業が進まなかったり、ゼミ生同士の意見がまとまらなかったりと少し苦労することもあると思いますが、その分、このコンペをやり終えた学生の顔には何物にも代えがたい充実感が溢れています。

「学生政策コンペ」への参加実績

◆ 2017年度 開催地:熊本県熊本市

地域力はあなたを生かす (公共政策フォーラム 2017 in 熊本 実行委員会賞)▶

-「結び目の家」による地域ネットワークの形成-


◆ 2016年度 開催地:新潟県津南町

津南ごっつぉミュージアム

-シェアしてつなぐ、雪のおかげ-


◆ 2014年度 開催地:京都府京丹後市

一人ひとりの幸せを育む京丹後モデル (日本公共政策学会会長賞)▶

-食と農を「リ・デザイン」する多主体協働の取り組み-


◆ 2013年度 開催地:埼玉県川越市

「不易流行都市」川越 

-「スキマ」を使った持続的なまちづくり-


◆ 2012年度 開催地:兵庫県篠山市

「シビック」が溢れる地域社会(篠山市長賞)▶

-埼玉県宮代町の取組みを通して考える、大都市近郊における農村地域の再生-



日本公共政策学会・学生政策コンペ 2017 in 熊本

地域力はあなたを生かす -「結び目の家」による地域ネットワークの形成-



地域力はあなたを生かす ―「結び目の家」による地域ネットワークの形成― 

大東文化大学環境創造学部 齋藤博ゼミ 

代表者:白崎貴子 発表者:白崎貴子 

参加者:野口美桜、山本浩輝、荒井佳奈、目黒莉奈、金子拓磨、長谷川智紀、関矢七望


 梗概 

 熊本地震では在宅避難者や車中泊の避難者が多数いた一方で、行政の支援は主に避難所を中心とするものであり、地域に点在する避難所に来ない被災者を支援することが十分に行われなかった。それは、行政の想定を超えた被害が起きたことに加えて行政自身が被災したことにより、被災者支援という課題が、行政能力の限界を超えた結果であった。そして、この経験から行政だけに頼るのではなく、地域住民の主体的な共助の取り組みとしての「生活防災」の重要性が認識された。「生活防災」は、日常生活に寄り添ったもので、日常生活を構成する諸活動(家事、仕事、学習、高齢者福祉、子どもの安全、個人の趣味など)の延長線上に防災や減災を位置付けている。 

 しかしながら、「生活防災」を実現するためには、行政によるフォーマルな防災計画や非常時を想定した防災訓練だけでは不十分である。地域コミュニティを基礎とする多様な主体による協働によって蓄えられる「地域力」が必要となる。「地域力」とは、阪神淡路大震災後の復旧、復興の過程において行政能力の限界が露呈し、その不足を補完する住民が主体となった取り組みを支える力のこと(宮西、1986年)である。そして、現在、国土交通省や総務省などの中央官庁や全国の自治体において、地域再生を実現するために必要な力であるという認識のもと、「多様な主体の協働により地域の課題を解決する力」という意味で用いられている。 

 そして、本提案では、「地域力」を向上させる日常生活に寄り添った取り組みとしての「地域包括ケアシステム」に着目した。2006年の介護保険法の改正にともなう在宅介護を中心とした高齢者福祉の仕組みとして「地域包括ケアシステム」の構築に向けた取り組みが始まった。その後、約10年間の「地域包括ケアシステム」の実践を経て、2017年に「地域共生社会の実現」を目的とし、「地域包括ケアシステム」の深化による2035年の保険医療システムの構築に向けた指針が厚生労働省から示された。それは、福祉の対象を高齢者に限定せず、障害者や子ども、若年層を含めた地域共生社会を「地域住民の参画と協働」により実現するという内容となっている。「地域住民の参画と協働」は「地域力」の源泉であり、平常時における、地域福祉をはじめとする地域運営はもちろんのこと、被災時における住民の生活を支える大きな力となり得る。

 そこで、平常時に蓄えられた「地域力」が被災時における有効な原動力となり、復旧・復興過程における地域社会の対応力を高めることになると考え、本政策提案においては平常時の課題である地域福祉を促進することで、「地域力」の向上を図る取り組みについて提案を行っている。具体的には、地域福祉拠点である「結び目の家」を提案する。「結び目の家」とは、プライベートと公共施設の中間であり、地域住民が気楽に訪れて交流を行える地域の居場所である。居場所を構成する要素としてプログラム・運営組織・連携が挙げられ、この3つの要素により規模が異なるネットワークを構築し、地域住民・地縁組織・市内組織との連携を図ることが目的である。 

 本稿の構成は、第1章では熊本地震について述べ、第2章では熊本市の地域福祉の基盤となる「地域包括ケア」について示し、第3章で「地域福祉」と「生活防災」を基盤とした政策提案を行う。 調査の概要 熊本市の詳細な現状や熊本地震での課題を把握するためにヒアリングを中心とした現地調査(H29.3.13-16)を行った。ヒアリング調査については、熊本市役所総務企画課、そして、住民が主体となった取り組みを展開した一新校区の避難所関係者、五福校区の避難所(含む、新町古町プロジェクト)関係者の合計3箇所で行った。また、具体的な政策提案を行うために、熊本市の地域包括支援センターである「ささえりあ熊本中央」に電話によるヒアリング調査を行い、熊本市の地域包括ケアシステムの現状と課題を認識した。

 さらに、政策提案を行なう上での事例研究として、齋藤ゼミとの協働の取り組みを進めているNPO法人自然工房めばえが運営するオープンハウス・コミュニティカフェ「めばえるcafé+」(東京都練馬区)及び地域の居場所として住み開きを行いながら地域福祉を担う「こまじいのうち」(東京都文京区)に調査を行った。また、地域住民が主体となった福祉のまちづくりの先進事例としての宝塚市社会福祉協議会の取り組みについての文献調査を行った。 


 1章 熊本地震について 
1-1 熊本地震から学んだ「地域力」の重要性

  現地調査でのヒアリングを通して、避難所の運営に校区ごとの特徴があることが分かった。一新校区では組織体制を作り住民それぞれが役割意識を持った「フォーマル(安定)」なコミュニティによる安定性があったのに対し、五福校区では普段からの住民同士の繋がりによる助け合いで、それぞれが自分の得意とする分野で助け合う「インフォーマル(柔軟)」なコミュニティによる機動性があったという特徴である。 

 一方で、東区は近年若者の流入による核家族化の進展により、地域での連帯意識の希薄化や自治会加入率の減少が課題となっており、避難所の運営に関しても行政頼みであった。そこで、この異なる特徴(柔軟性/安定性)を持つコミュニティがあることで、新たに転入してきた区民が地域に入り込みやすい環境を生み、旧住民と新住民といった異なる性格を持つ住民との関係を構築することができるのではないかと考える。 


1-2 熊本地震での課題 

 熊本地震において、行政と地域住民の連携が不十分であることが課題として挙がった。例えば、避難所の担当職員が毎回変わるとその都度一から説明をする必要があり、スムーズに物事を運ぶことが出来なかった。また、職員一人で2つの校区の避難所への対応をしなければならなかったため、避難所に来られず、車中泊や自宅で避難生活を送る住民の情報把握やサービス提供が不十分であった。そこで、今年度からまちづくりセンターが設置され、各校区に専任の地域担当職員が配置された。しかし、校区全体を見るには十分な人員が配置されておらず、住民との連携が必要である。 

 震災などの緊急時には行政の人間も被災者であり、すぐに動くことはできないからこそ「地域力」が試される。災害に強いまちを作っていくためには、行政の対応には限界があることを理解した上で住民は主体的に考え、行動を起こさなければならない。


2章 地域包括ケアシステムについて 
2-1 熊本市における地域包括ケアシステムの課題

  現在、熊本市の地域包括支援ケアセンター「ささえりあ」は市内27か所に設置されており、1つの「ささえりあ」で約3校区を担当している。人口で換算すると全住民は約2万人であり、その中で地域包括ケアの対象となる高齢者は約6,800人である。この規模を8人の職員が担当しており、主な業務内容は相談窓口での対応や健康イベントの開催、地域イベントへの参加などを行っているが、介護保険事業制度の変更により、地域へのアウトリーチの必要性と障がい者や子育てを含めた総合的な支援が重要視されているため、「ささえりあ」のスタッフだけでは手が回らなくなっている。そのため、認知度(=利用度)が低く「いざとなれば介護保険に頼ればいい」という意識があり、本来の地域包括ケアシステムとしての役割が果たせていない。また、多様な住民のニーズを把握しきれずそれぞれの事情を抱える住民が必要とするサービスを提供できていないことも課題である。 

 これらの課題は、震災時における復旧支援の課題と同じ状況であり、被災時の復旧支援と平常時の福祉サービスを支える基盤は共通(共用)できるのではないかと考えた。以上から、私たちは小さな地域単位での住民が主体的に活動できる「場」を設置することが必要であるということを提案の前提とする。小規模にすることで地域全体を見回すことができ、「地域のことは地域で」という考え方を実践することが出来る。 


2-2 地域住民の参画と協働 

 多様な地域の住民や組織が、地域の課題を共有し、「お互い様」の関係を構築することによって、主体的に地域課題を解決していくことが可能となる。そして、以上のことを実現させる具体的な取り組みとして、1)住民間のコミュニケーションの促進 2)地域の担い手の育成 3)情報の発信・共有が有効となる。また、これらの取り組みを行うためには、a)地域の拠点となる「場」づくり及びb)その運営(組織)、そして、地域を超えたc)多様な主体(市役所など)との連携が重要となる。 


第3章 政策提案:地域を包括するネットワークの中心「結び目の家」 
3-1「結び目の家」とは? 

 本来、「地域」や「地区」、あるいは、「街」や「町」と表現される社会的な活動の舞台となる地理的な広がりとしての「場所」は、固定的に存在するものではなく、様々なものの関係が結ばれる「結び目」(ヒーリー、2015)として存在している。そして、「結び目」としての場所は、「個人の行為と社会のルールが交差する地点で、物理的な経験(使う、飛び込む、見る、聞く、呼吸する)と、想像的解釈(意味や価値を与える)が同時に行われた時に生まれるのである」(同書、p.55)と論じられている。

 「結び目の家」は、固定的な場所を前提とした既存の地域包括ケアシステムを深化させ、真に地域を「包括」的にケアするための基点となることを目的としている。 「結びの家」はプライベートと公共施設の中間の「場」であり、地域の小規模から大規模のつながり、ゆるさから強固なつながりを構築するネットワークの中心としての役割を担う。「結び目の家」がつなぐネットワークは⑴弱い紐帯ネットワーク⑵地縁ネットワーク⑶オープンネットワークである。⑴「弱い紐帯の強み」とはアメリカの社会学者グラノヴェッターが『弱い紐帯の強み(strength of weak ties)』(Granovetter, 1973)という論文で示した仮説である。家族や親友、同じ職場の仲間のような強いネットワーク(=強い紐帯)から得られる情報は相互に既知であることが多いため、ちょっとした知り合いや知人の知人のような弱いネットワーク(=弱い紐帯)から得られる情報の方が価値があるという社会ネットワーク理論のことである。「弱い紐帯ネットワーク」により地域とつながることで、新しい価値あるものを入手できるという意味がある。⑵「結びの家」の運営組織として自治会、NPO組織、また社会福祉協議会の「地縁組織ネットワーク」と、地域ボランティアによる「ボランティアネットワーク」の構築を目標とする。⑶オープンネットワークの構築では、より広い情報発信を目的とした「まちづくりコンペ」及び地域の多様な主体間のコミュニケーションを促進する「地域会議」を開催することにより、「結び目の家」を基点とした市役所を始めとする市内組織とのネットワークの構築を図る。 


3-2 「結び目の家」の運営方法 

 まず「結びの家」の運営について検討を行う。具体的には、本施設と類似するコミュニティカフェの運営実態について、『コミュニティカフェの実態に関する調査結果』(2011、大分大学福祉科学研究センター)参照し、施設運営のポイントを検討する。 上記調査によると、コミュニティカフェの運営主体の87.4%は、NPO、個人、任意団体であり、運営の目的は地域活性化(68.1%)、保健福祉(56.4%)、地域への貢献(54.0%)となっている。また、運営の実態については、補助金を除くと赤字になっているコミュニティカフェが全体の67.8%となっており、厳しい運営状況が浮き彫りとなっている。支出の内訳として挙げられている項目は、人件費(46.5%)、その他(31.9%)、家賃(15.1%)が上位となっており、また、収入の内訳としては、売上(80.4%)、補助金(32.9%)、会費(25.2%)が挙げられている。 

 当然のことながら、コミュニティカフェの運営には、日々の様々な支出が必要となるが、特に支出項目における割合が大きい人件費と家賃を低減するための仕組みや工夫が重要となる。そこで、「結び目の家」では、より多くのボランティアスタッフの参加を促進するとともに、「稼ぐことが出来る」ボランティアスタッフの育成するプログラムを実施する。また、家賃に関しては、いわゆる「住み開き」を行なうことで家賃負担および開業資金の低減を図りながら地域に密着した場所とする。一方、コミュニティカフェの収益となる売上は、主に物品の販売や飲食によるものであるが、これらの収益活動が地域社会への貢献というコミュニティカフェの目的と合致せずに、運営組織の資源が効率的に活用出来ない場合が見受けられる。そこで、地縁組織による協働体制により、地域社会への貢献と収益の確保が両立する様々なプログラムを提供する。


3-3 プログラムによる「弱い紐帯ネットワーク」 

 「弱い紐帯ネットワーク」を構築するために、「結び目の家」では『ちょっと面白そうだ!』と地域住民が気楽に参加できるプログラムを開催する。ここでは、常時開催される「くまカフェ+」と、地域資源の発掘を目指す「地域学習ワークショップ」、地域の安全を見守る「地域見守りワークショプ」を提案する。 

 「くまカフェ+」は、自由に来てお茶を飲みながらおしゃべり楽しむというスタイルである。「くまカフェ+」の雑談の中から利用者からの『こんなことをやってみたい!』という意見をきっかけに新しいメニューが生まれるだけではなく、『認知症かも知れない!?』『障害のある子どもの将来が不安…』『お隣さんはゴミ屋敷?』という地域やそこに住む人の課題の発見の場となる。 

 次に「地域学習ワークショップ」では、地域資源を活用したワークショップを企画することで、地域への愛着だけではなく、構築されたネットワークによる「お互い様」の気持ちを醸成する。例えば、地域にある農家の野菜を使った料理教室や農業体験などのワークショップを行うことで地産地消につながるだけではなく、震災時に炊き出し用の食糧の調達先を確保することが可能となる。熊本地震では、「知り合いの農家から野菜を提供してもらった」「商店が多い場所だから食料提供と炊き出しを行ってくれた」という「お互い様」が被災者の避難生活を支えにもなっており、日常生活でのつながりの重要性が再確認された。また、耳の聞こえない障がい者による手話教室を行うことで、障がい者への理解が深まると共に、震災時には手話を使った避難誘導が可能となる。「地域見守りワークショプ」では、地域課題や危険箇所を把握と高齢者への訪問を行う。高齢者関係資料集によると、熊本市の65歳以上高齢者の単独世帯が69,111世帯(10.1%)、夫婦のみ世帯数が78,848世帯(11・5%)とどちらも全国平均を上回っている。一人暮らしの高齢者に対し、行政や民間組織だけではなく十分なアウトリーチを行えないため、地域住民による高齢者訪問が必要である。また、日常的にパトロールすることにより高齢者の居場所や状態を把握することで震災時の安否確認につながり、普段から危険箇所を住民全体で認識することで避難誘導に役立てることが可能となる。

 これらの活動を通して地域課題が見えてくるようになり、その課題解決に必要なプログラムを考えるというサイクルが生まれる。例えば、地域の野菜を使った料理教室の際に「親の共働きにより温かいご飯が食べられない子どもがいる」という地域課題が発見され、子ども食堂プログラムに発展させることで子ども達に温かいご飯を提供することができる。また、社会福祉協議会ルートで経済的に困難な家庭の子どもに声を掛けてもらうことで地域福祉の課題解決にもつながる。熊本市の東区では若い世代の増加により待機児童が増えてきていることから、地域で安心して預けられる場を子育て中のお母さん達で企画することも考えられる。 


3-4 運営組織「大家」による「地縁ネットワーク」 

・運営組織「大家」の形成 

  「結び目の家」の運営組織「大家」は、自治会、NPO組織、社会福祉協議会(以下、「社協」)の地縁組織との協働による組織である。「大家」とは、江戸時代の長屋文化に存在した長屋を管理する人物のことであり、長屋に住んでいる人(店子)の世話係であり責任者でもある。主な仕事には長屋の修繕や喧嘩の仲裁、新居者への対応があり、一人で対応できないことは店子と協力しながら長屋を守っていた。この長屋を「結び目の家」に置き換え、「大家」として地縁組織と協力しながら運営を行うという意味が含まれている。 

 最初に、「大家」の形成から述べる。第一に、社協が主導し、まちづくりに興味ある地域住民を中心に「担い手育成プロジェクト」を実施し、組織の運営方法やプロジェクトの企画、情報交換・共有の方法など、住民主体組織「大家」を形成するにあたり必要な知識やスキルの習得を行う。第二に、「担い手育成プロジェクト」を終えた地域住民による「大家」と自治会、NPO組織による運営会議を社協の主催により行う。運営会議では、「地域にとって必要なことはどのようなことなのか?」また、「自らの地域でどんなことがやってみたいか?」など、地域の課題やまちの将来について話し合い、地域組織との情報交換、価値観の共有を行い、協働の基盤を構築することを目的とする。第三に、「大家」を中心に拠点づくりを行い、SNSや回覧板での情報発信を行うことで、住民への参加を促す。その後は「運営会議」を通して、居場所の在り方や運営状況の報告など情報を共有することで協働体制を強化していく流れである。 

 「こまじいのうち」でのヒアリングから「場の雰囲気は運営者によって決まる」ということが分かり、場に対して多くのルールを設けずに「ゆるい」体制を維持することが重要となる。その結果、気楽に住民が訪れる場の形成だけでなく、地域住民が参加者から提供者へのシフトを促進し、地域の担い手を得る機会となる。また、住民ボランティア間の価値観を共有し協働を促進するための「ボランティアミーティング」を開催する。参加者は日頃抱えている悩みや課題を共有し、共に解決方法を考えることでストレスの軽減を図ることによって、スムーズな「住民の参画と協働」を実現させる。

 

・協働の布陣における各組織の役割 

 まず、自治会の役割として、「結び目の家」となる住宅の情報提供やオーナーとの仲介役を果たす。自治会が関わることにより、地域の人も安心感を得て活動への協力を促していく。熊本市は自治会加入率90%以上であるため、自治会による情報発信を行うことで多くの住民の目に留まり、参加者を募ることができる。「大家」は「地域見守りワークショップ」によるパトロールや地域イベントへのサポートを行い、高齢化している自治会の運営の活性化を図る。震災時には自治会との協働体制を活かし、熊本地震で自治会が行っていた「安否確認・避難誘導」を協力して行う体制を作り上げる。NPO組織の役割は、「結び目の家」によるワークショップの開催や運営方法のアドバイスを行うことであり、多様なワークショップを展開するため、専門的に行っている事業のワークショップ企画を行う。

 また、NPO組織自身は地域での活動場所を確保することができるというメリットがある。熊本地震において、NPO組織は「ボランティア」による被災者のケアとイベントの開催などの活動を展開した。さらに、NPO組織が持っている資源を有効に活用する機会を得るために、「大家」を中心としたネットワークにアクセスすることで、より効果的な助け合いが生まれる。社会福祉協議会は専門組織として地域福祉に関する専門的知識の伝授によるサポートを行う。 

 「大家」と地縁組織は普段の活動の中でお互いに利益がある関係を結ぶことにより、積極的介入と継続したやり取りが行われる。その結果、地縁組織全体のネットワークを構築することになり、「助け合い」の体制ができる。熊本の現地調査でも「行政頼みになってはいけない。自分たちのことは自分たちで助け合うという気持ちが大切である」という意見があった。 


 3-5 「オープンネットワーク」を構築する「地域会議」と「まちづくり提案」

 自治会レベルの小規模な居場所である「結び目の家」と市・校区レベルの市役所や地域包括ケアセンター、企業、大学とのネットワークを、どのように構築するのかということ重要である。そこで、「地域会議」と「まちづくり提案」を開催する。 「地域会議」とは、校区ごとに地域住民代表である各居場所の「大家」と市役所、地域包括ケアセンター、協力大学が定期的に集まり「結び目の家」での活動報告や地域課題の共有を行う場所である。他の居場所の良い所は活動報告から学び、地域課題は共有することで普遍化を図り、地域課題を個々のものとしてではなく市全体の課題として捉えることを目的とする。

 すでに熊本市では小学校校区の地域団体による形成された校区自治協議会が存在するため、既存のネットワークを活用することで実現可能性を深める。 次に「まちづくり提案」では、地域をより良くするための事業を提案し、その採択事業に対し、企業の資金的サポートや大学の技術的サポートを行なうだけではなく、学生が携わることで地域貢献の場を生み出す。「結び目の家」における新たな事業の提案を行う機会でもある「まちづくり提案」は、地域住民と地域内外の組織とのネットワークが構築される。


3-6 災害時のネットワーク 

 日常の中で構築された3つのネットワークにより、震災時はどのような効果を生み出すのかということについて、時間軸と情報伝達の面で見ていく。

  避難する際に最初に必要とされるのは「弱い紐帯ネットワーク」である。プログラムにより地域の人と「顔見知り」の関係を築いているため、住民同士での安否確認や避難誘導がしやすくなる。次に必要となってくるのが「地縁ネットワーク」による避難所運営である。熊本地震では「誰に話を通せばいいのかが分かっていれば避難所運営は上手く回る」という意見があったため、日常的に行ってきた「運営会議」を活かし、情報共有を行い被災者に対する支援の統制を図るとともに、ボランティアネットワークによる炊き出しや、安否確認の補助を行うことができる人を動員する。その結果、震災から3日間は行政に頼らず自分たちで避難所生活を送ることができる。震災3日後から「オープンネットワーク」を活用した市役所や企業との情報共有により支援物資の調達や避難所としての施設の開放をスムーズに行う。各ネットワークの役割を日常の活動を通して明確にしていくことにより、震災時に効率よく動くことができる。 

 情報伝達の面では、避難所以外の在宅避難者や車中泊の人との情報伝達手段が課題である。SNSなどにより情報をキャッチできる人はよいが、高齢者など携帯電話を持っていない人にも公平に情報を発信することが必要である。そのため、「大家」を中心に規模の異なるネットワークを活用することで公平に情報が届くようにする。「弱い紐帯ネットワーク」「地縁ネットワーク」による避難所以外にいる住民の情報を収集する。そして、収集した情報を「大家」が指定避難所に伝達し、情報の共有と統括を図ることで支援物資の配給や避難者の認識をスムーズに行う。市役所からの情報については、その逆の流れで行うことで避難所生活以外の人にも公平に情報伝達を行うことができる。 


 4章 まとめ 

 以上の提案により、「結び目の家」を中心としたご近所を中心とした小さなスケールから、市全域に広がる大きなスケール至るネットワークが構築されることで、住民主体の地域福祉を推進する基盤が生み出される。そして、この基盤の構築を通して向上した「地域力」は、平常時における地域福祉の推進だけではなく、震災時における被災者の包括的な生活支援を実現する。 

 現在の日本においては、度重なる自然災害(地震、台風、大雨など)への対応は喫緊の課題となっている。また、自然災害による劇的な地域への影響とは対照的に、徐々にではあるが確実に進行している少子高齢化に起因する様々な社会問題(相互扶助の弱体化、労働力人口の減少、社会資本の維持管理など)が益々顕著になっている。そして、この2つの課題は、一見、別のものとして捉えられているが、本政策提案において述べたように、平常時における「地域力」を向上させることによって、これらの課題への対応を可能とするのである。


参考文献 

・大分大学福祉科学研究センター「コミュニティカフェの実態に関する調査結果」、2011年 

・齋藤博(2017)「地域力を『文脈化』する」、佐藤滋他「まちづくり教書」、鹿島出版会

・清水義次「リノベーションまちづくり」学芸出版社、2014 

・宝塚市社会福祉協議会「市民がつくる地域福祉のすすめ方」全国コミュニティライフサポートセンター、2015 

・野沢慎司(2006)「リーディングスネットワーク論:家族・コミュニティ・社会関係資本」 東京 : 勁草書房 参考資料

・パッツィ ヒーリー著、後藤春彦監訳、村上佳代 訳「メイキング・ベター・プレイス:場所の質を問う」鹿島出版会、2015 

・宮西悠司「地域力を高めることがまちづくりー住民の力と市街地整備」『都市計画』143号、都市計画学会、1986

・山納洋「つながるカフェ コミュニティの〈場〉をつくる方法」学芸出版社、2016 

・矢守克也「〈生活防災〉のすすめー東日本大震災と日本社会」ナカニシヤ出版、2011 


・江戸ガイド (8月24日閲覧:https://edo-g.com/blog/2016/01/recycling.html)

・コミュニティカフェの実態に関する調査結果(2011、大分大学福祉科学研究センター) (8月20日閲覧:http://www.hwrc.oita-u.ac.jp/publication/file/Text_2011_2.pdf)・熊本市公式ホームページ (3月15日閲覧:http://www.city.kumamoto.jp/default.aspx?topdsp_sp=ON) 

・熊本市第6次総合計画 (3月15日閲覧:http://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=1348&sub_id=3&flid=35184) 

・熊本市広報誌 わくわくがはじまる本 (3月17日閲覧:https://kumamoto-guide.jp/files/e3d2e3e0-d3f9-4a09-b453-6ba2efa39357.pdf) 

・熊本市市勢要覧 (3月15日閲覧2015https://www.city.kumamoto.jp/html/aramashi/toukei/top/yoran2015/) 

・熊本県公式ホームページ:高齢者福祉関係集 (9月3日閲覧:http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_5852.html) 

・熊本市震災復興計画(3月15日閲覧: https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=13968&sub_id=3&flid=93166) 

・厚生労働省 地域包括ケアの深化・地域共生社会の実現 (4月20日閲覧:http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000130500.pdf) 





日本公共政策学会・学生政策コンペ 2016 in 津南

津南ごっつぉミュージアム -シェアしてつなぐ、雪のおかげ-


津南「ごっつお」ミュージアム 

~シェアしてつなぐ、雪のおかげ~

大東文化大学 環境創造学部 齋藤博ゼミ

代表者:山本浩輝 発表者:山本浩輝、白崎貴子 

参加者:荒井佳奈、安藤大悟、金子拓磨、四村岳、白鳥華紀、関矢七望、

野口美桜、長谷川智紀、武蔵有花、目黒莉奈、渡部勝暁


1章 はじめに

 縄文の時代から人が住み、雪とともに生活を営むことで文化を育んできた津南町は、 元来人と自然が共存する豊かな地域である。本政策提案では、この豊かな地域資源の可能 性を最大限に発揮することで、衰退しつつある地域に元気を取り戻すことを目的としてい る。

 地域の方々が口にする「ごっつぉ」(=ごちそう)という言葉は、自然が育んだ豊かな 恵みを表し、地域への愛着と誇りが溢れる豊かな響きを持っている。この地域全体に広が る「ごっつぉ」(⇒地域資源としてのヒト・コト・モノ)を軸として、地域住民が主体と なる活動を展開することによって、都市農村交流の促進と地域コミュニティの活性化を両 立させることが本政策提案の骨子となっている。そして、その具体的な方法としての「津 南ごっつおミュージアム」を軸とした政策提案を行う。

「津南ごっつぉミュージアム」により再編集される地域資源

 津南町の多様な地域資源をシェアすることで、地域内外の様々なヒト・コト・モノの 関係を再構築することが「津南ごっつぉミュージアム」の目的である。「津南ごっつおミ ュージアム」は、津南町全域に広がる地域資源を再確認・再発見し、地域内外の様々な 人々が様々な形シェアするための「拠点づくり」と「プログラムの提供」を行う。その結 果、地域内外の交流人口を促進させるだけでなく、少子高齢化により活気が失われつつあ る地域内のコミュニティの活性化を図ることを目指している。

「シェアリング津南」による地域協働の運営体制

「津南ごっつおミュージアム」は、物的な地域資源の保存や展示だけでなく、津南町の 人々や組織、あるいは、その活動といった社会的な資源の育成も担っている。その実現の っためには、様々な地域内外の主体が連携し独自のノウハウを持ち寄る(=シェアする) ことが出来る運営組織が必要となる。そこで、「津南ごっつおミュージアム」の運営を担 う「シェアリング津南」は、DMOとしての観光地域づくりの推進だけでなく、地域を支 える様々な主体の連携を促進しながら、地域の可能性を広げることを目指している。


2章 研究の方法

 まず最初に、文献調査による津南町の基礎知識を調査し、プレ現地調査(H28.5.21-22) において、資料収集や簡単なヒアリングを通して津南町の全体像の把握や新たな魅力・課 題の発見を行った。これらの事前学習を踏まえて、実現可能な提案を行うため現地調査 (H28.8.3-6)を行った。ヒアリング対象として、町役場(総務課企画財政班、地域振 興商工観光班)をはじめとする、地域での積極的な取り組みを行っている主体である「か たくりの宿」「見玉集落」、「NPO 法人越後妻有里山協働機構」、「ごっつお市」、「NPO 法人 Tap」、「農家民宿サンベリー」、「農と縄文の体験実習館なじょもん」、「(有)フジミヤ」に対 して行った。

 文献調査及びヒアリングを通して、津南の課題解決と魅力の向上を図る提案として「エ コミュージアム」をコンセプトの中心とした。そして、津南町で提案する「エコミュージ アム」で展開される具体的なプログラムを考えるうえで、齋藤ゼミが東京都練馬区で実践 している「楽農くらぶ(福祉農園づくり)」における経験を参考にするとともに、更なる可 能性を追求するために、「道の駅・保田小学校」「取手アートプロジェクト」「(財)キープ協会」 を研究対象事例として調査を行った。また、日本版DMOである「リアス観光創造プロッ トフォーム」について、運営組織の事例研究として文献調査を行った。


3章 津南町の現状把握

3-1 課題

 津南町の生産年齢人口は昭和 30 年から 12,332 人、昭和 60 年で 8,487 人、平成 22 年で 5,624 人と年々減少している。現在(平成 28 年)の人口は 10,133 人であり、それ と合わせて高齢化率 38.2%と高齢化も進んでいる。高齢化が進むことで、津南町の基 幹産業である農業の担い手不足を引き起こし、農家数は昭和 60 年で 2,296 軒、平成 22 年で 1,710 軒と減少しており、農業の衰退も進行している。減少したのは「ヒ ト」だけではなく、津南町の学校数(小学校・分校)も昭和 30 年では 21 校であった が、現在では 3 校となり、町民にとっての思い出が失われている。

3-2 魅力

 津南町には魚沼産コシヒカリや雪下人参に代表される農作物や信濃川が作り出した 河岸段丘などの自然環境、縄文時代から長く続く歴史と文化など、多くの魅力である 「ごっつお」がある。また、見玉集落では採れたての野菜をごちそうしてもらい、伊 勢屋旅館では温かみのあるサービスなど、おもてなしの心を感じることが出来た。つ まり、実際に訪れれることで発見する魅力が多くある地域なのである。

3-3 津南町にとっての「雪」

 地域住民の雪に対する思いは否定的なものと肯定的なものの両方が混在している。 まず、雪をやっかいものと捉えている考え方である。「冬の時期は朝早くから除雪活 動をしなければならない」「雪のせいで町が他地域と隔離されてしまう」という意見 があり、「雪さえなければ!」という思いが読み取れた。その一方で、雪のおかげで 津南町は魅力に溢れているという考え方も多くうかがえた。「雪のおかげで美味しい農作物と豊富な水があり、それを食べているから健康になれる」「雪のおかげで雪ま つりなどの雪国独自のイベントが出来る」など、「雪のおかげ」で雪国ならではの魅 力を実感していることが分かった。

3-4 地域の取り組みと課題(行政の取り組み)

 津南町が取り組んでいる地域政策として「大地の芸術祭」「雪国観光圏」「苗場山麓 ジオパーク」がある。 

・「大地の芸術祭」:野外で現代アートをテーマとしたイベントで、知名度の向上や観 光客の増加など大きな効果が出てい る。その一方で、芸術祭期間外での集客が課題が ある。

・「雪国観光圏」:豪雪地帯である地域独特の資源を PR することを目的としている。 サイン計画を共同で整備することや、共通の認定評価を導入するなど、一定の連携成 果がみられる。その一方で、体験プログラムなどはそれぞれで完結してしまってお り、連携が少ないという課題がある。 

・「苗場山麓ジオパーク」:地球の成り立ちを観察できる地形や地質、そこで育まれた 人々の営みという津南町の魅力を体験学習することが出来る場所である。しかし、活 動実績がまだ浅いため、ジオパーク全体で楽しめるプログラムが確立していないとい う課題がある。

3-5 地域の取り組み(市民の取り組み)

・ごっつぉ市:津南町の郷土料理を味わえる食堂で、食材は地元で採れたばかりの新 鮮な野菜が中心である。来訪者からは「食べたら体の調子が良い」「母の味がして懐 かしい」といった声が聞かれ、反響は上々である。しかし、「レシピが分からない し、作る環境がないので作れない」といった声もあり、津南町の食文化を体験し、理 解できる場所が少ないという課題がある。 ・観光物産館:観光拠点であり、津南の特産品をお客様が飽きないような商品開発を 行っている。しかし、観光施設としてお客様に訪れてもらうための工夫や情報発信の 少なさが課題である。

・NPO 法人 Tap:津南の「つながり」を取り戻すことを目的として設立され、健康 を意識したイベントを多数行ってる。イベント数は多いが、イベント参加層にバラつ きがあるため、住民全体を巻き込むプログラム作りが課題である。


4章 事例研究

「津南ごっつおミュージアム」で展開されるプログラムの提案における事例研究として、 齋藤ゼミが実践している「楽農くらぶ(福祉農園づくり)」での実践を参考としている。さ らに、地域の拠点づくりの事例研究として「道の駅 保田小学校」、山間地域における自然 体験プログラムの事例研究として「(財)キープ協会」、そして、空き家活用の事例研究として 「取手アートプロジェクト」の調査を行っている。

4-1 東京都練馬区「楽農くらぶ」の「福祉農園づくり」 

◯調査目的:津南町では人と人の「つながり」を大事にしている NPO 法人や集落が存在す るが、集落などが点在していることから集落同士のつながりは希薄であるため、私達が携 わっている楽農くらぶの取り組みを活かし、さらなる「つながり」を広げていくことが目 的である。

◯概要:楽農くらぶでは、NPO 法人自然工房めばえが中心として活動を行っている。植物 をツールとして「人と自然」がふれあい、「人と地域」が集い、「人と人」の心が手をつな ぎ、障害や世代などを越えてコミュニケーションや生きがいを創出するぬくもりのある空 間や居場所、時間の創出を目的としている。

◯調査結果:楽農くらぶでは NPO 法人自然工房めばえを筆頭に農家、大学、障害者団体、 地域住民などが自分達で出来ることを活かして活動を行っている。立場も境遇も異なる人 たちが協力し合うことで、人と人とがつながり、新たなコミュニティが形成されることが 調査結果として得られた。

◯政策提案のポイント ・植物をツールとしたコミュニティの活性化 ・地域自然を活かした「家づくり」と「畑づくり」の活動


4-2 千葉県鋸南町「道の駅 保田小学校」の「廃校を活用した拠点づくり」 

◯調査目的:津南町には豊かな自然や豊富な食材、資源があり県外からも多くの人々が訪 れるが、地域の歴史・文化・食について学ぶことが出来る場や、交流の場が少ないため、 地域資源を集約させた交流拠点づくりを調査することが目的である。

◯概要:2014 年、学校としての役目を終えた保田小学校が「道の駅 保田小学校」として、 鋸南町の人・モノ・歴史・文化を集約させた、地域活性化の交流拠点として活用されてい る。

 ◯調査結果:「保田小学校」では、体育館を使った直売所、教室を使った宿泊施設など小学 校の雰囲気を残しつつ、温浴施設や公共施設、食堂を含めた都市交流施設として展開した。 施設自体に小学校のイメージを極力残すことで、学校の備品はエコの一環として捨てずに 残せるうえ、小学校の面影も残せるという利点が生まれる。その利点により、町の人々に とっての思い出の場所を有効活用しながら維持することができると調査結果から得られた。 

◯津南町への政策提案ポイント

・廃校を地域の交流拠点としてリノベーション ・宿泊機能など拠点としての機能 ・小学校の面影を残すことの利点

4-3 山梨県「キープ協会」の「自然体験プログラム」

 ◯調査目的:津南町は豊かな自然に恵まれているがその自然を活かした活動がごくわずか であり、参加している年齢層も狭いという現状である。そのため、自然環境を最大限に活 かした自然体験プログラムを調査することが目的である。 

◯概要:キープ協会は、「人類への奉仕」の 4 つの理念、「食糧」、「保健」、「信仰」、「青年 への希望」に「環境教育」、「国際協力」を加えた6つのテーマを事業方針とし、体験プログラム、宿泊、研修などを多角的に行っている。 

◯調査結果:現代の自然体験学習はインターネットなどを通じて感覚的に学ぶ「間接体験」、 シミュレーションや模型型など模擬的に学ぶ「模擬体験」が主流になっているが、今後の 自然体験学習では実際に自然に触れ、感じる「直接体験」が必要となってくる。キープ協 会では森の中を散策しながら学ぶことで、直接的に自然を感じ取れる体験学習になってい る。それだけではなく、キープ協会の「宿泊施設」には、清泉寮とキャンプ場、キープ自 然学校の3つが存在している。それぞれ、家族旅行、グループ旅行、研修目的の滞在とい った用途に合わせた施設となっているため、用途に合わせて自分が楽しめる自然体験プロ グラムを選択できることが調査結果として得られた。

◯津南町への政策提案のポイント 

・自然体験学習は実際に自然と触れ合う「直接体験」 ・用途や年代に合わせてプログラムを選択できる多様性

4-4 千葉県取手市「TAP(取手アートプロジェクト)」の「市民主体性のプログラム」

◯調査目的:津南町を含む越後妻有には、世界最大級の国際芸術祭である「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」が潜在資源として存在しているので、地域資源を生かし たアートによる地域づくりを調査することが目的である。

◯概要:1990 年より市民と取手市、東京芸術大学の三者が共同で行っているアートプロジ ェクトである。若いアーティストたちの創作発表活動を支援し、市民に広く芸術と触れ合 う機会を提供することで、取手が文化都市として発展することを目指している。 

◯調査結果:取手アートプロジェクトは市民が積極的にプロジェクトに取り組んでおり、 自分たちの身の丈に合った活動を行うことで、市民主体の持続性を持つ活動である。その 中で特に興味深いプログラムとして減量住宅が挙げられる。空家が抱える余計な脂肪は、 耐震問題や老朽化、固定資産税や維持管理など様々な問題を生み出すため、痩せて余計な 負担を減らすプログラムである。作家が空家に約 1 年半住み、その間の家賃をオーナーは 無料にするという仕組みを施し、その代わりにアーティストが家に住みながら「理想体型」 にシェイプアップするための減量作業を行う。「壊す」ことを前提としてプロジェクトを進 めるという従来のプロジェクトにはない新しい発想が調査結果として得られた。 

◯津南町への政策提案のポイント

・市民主体によるプロジェクトの持続可能性 ・減量住宅による空き家対策

4-5 地域連携を図る運営組織 宮城県気仙沼市「リアス観光創造プラットフォーム」の「DMO 組織」 

◯調査目的:津南町には更なる活性化のために各組織の連携が重要であると考えた。それ と同時に津南町に眠っている資源を観光資源として目覚めさせる方法も模索できる組織を 調査することが目的である。 

◯概要:「リアス観光創造プラットフォーム」は、気仙沼市の行政、商工会議所、観光コン ベンション協会との四位一体の協働体制を作り上げ、気仙沼市の観光業の戦略的方策を推 進、実行していく中核組織である。

◯調査結果:気仙沼市では「リアス観光創造プロットフォーム」の設立により四位一体の 協働体制を作り上げたが、各組織の役割分担が出来ておらず、役割の重複や不足が新たな 課題となった。しかし、DMO 組織として役割を加えることで、共通の目標を持ち、役割分 担の明確化を図った。DMO 組織とは国内外の観光客を戦略的に創出することと、地方創生 を実現するためにマーケティングとマネジメントを行い、目標と情報の共有をすることで 地域一体を図る法人であることが調査結果として得られた。 

◯津南町への政策提案ポイント

・中核組織としての役割 ・観光価値を高める戦略作りを行うDMO組織


5章 政策提案:津南「ごっつお」ミュージアム

5-1 津南「ごっつお」ミュージアムの基本コンセプト

 政策提案の中心となる「津南ごっつぉミュージアム」の立案にあたって、ヨーロッパを 中心に疲弊した地域の再生を目的とした取り組みである「エコミュージアム」を下敷きと している。さらに、ミュージアムで提供される様々なプログラムについては、近年、様々 な形で我々の生活を変えつつまる「シェア」の可能性に着目したものとなっている。

(1)「エコミュージアム」とは

「エコミュージアム」は日本語に訳すと、「生活の博物館」となる。その特徴として、特 定の建物を持たず、地域全体を博物館として捉え、地域にある資源を展示物としている。 エコミュージアムでは地域内の主体同士がつながることにより、各主体の活動が展開・発 展するネットワークと、互いに学習する姿勢をつくるコミュニティが生まれるなど未来の 地域を作り出す博物館である。エコミュージアムの重要な柱として、「Participation(手 法的特徴)」「Heritage(形態的特徴)」「Museum(基本条件)」がある。この柱で我々は博物 館機能を拡充させて、展示や体験するだけではなく、地域のことを地域内外の人で考える ことが出来る機能に置き換え、津南町のエコミュージアム化を図る。

(2)「シェア」

 豊かな自然や美味しい農作物である「モノ」、雪国独自の知恵である「コト」、地元に熱 い思いを持つ「ヒト」が存在する。「モノ・コト・ヒト」をどのように繋げることができる か、どのように提案で生かすことが出来るかを考えた際にキーワードとなるのが「シェア」 である。参加者が参加費を払い、運営が楽しめるプログラムを提供をすることで、活動の 場が活性化するだけではなく新しいコミュニティが生まれる効果がある。このように、互 いに出し合い、共有することで相乗効果が得られるのが「シェア」である。

5-2 津南「ごっつお」ミュージアムで展開されるプログラム

 我々が行っている「楽農くらぶ」を中心として、事例研究を参考として「津南らしさ」 を取り入れたプログラムを提案する。各プログラムは津南町の課題解決に資する「交流人 口の増加」「健康の促進」「農の活用」をテーマとしている。

(1)「シェア・スクール-みんなの拠点づくり」:リノベーションによる廃校の活用

 地域コミュニティの中心として長く親しまれてきた小学校の廃校を利用し、その周辺に ある施設との連携、及び、地域資源を活用することによって、地域の特徴を生かした拠点 づくりを行う。

(2)「飯っせんじゃー-ご飯がつなぐ縁づくり」:郷土料理による健康づくり 

【概要】季節に応じた特産物を使い、幅広い年代が楽しめる郷土料理の料理教室を行う。

⇒食材、風景、人材、レシピを「シェア」する。 【ポイント】津南町の郷土料理は美味しく健康志向であるが、現在では郷土料理の伝承が薄れている問題があるため、郷土料理を実際に作る機会が重要である。 【効果】地域食文化の継承、健康寿命の延伸、安心コミュニティづくり

(3)「つな農プロジェクト-田んぼはみんなの晴れ舞台」:福祉農園づくり 

【概要】我々が実際に行っている「楽農くらぶ」を参考に農のプログラムと季節を通した自然のプログラムを行う。

⇒農地、人材(コミュニティー)、農と自然の知恵を「シェア」する。 【ポイント】ヒアリングを行った際に地域間のつながりの希薄化を強く感じたため、人々が協力し合う機会があることで、コミュニティの強化を図ることができる。 【効果】農業資源の活用、体験学習による魅力発信、コミュニティの活性化

(4)「ダイエット・ハウス-リバウンド大歓迎!)」:減量住宅 

【概要】若手の作家や地域外の人に手軽に空き家を提供する条件として、春から空き家を減量し、冬に雪の重みで自然に壊してもらうプログラムである。

⇒空き家、地域外の人、アイディアを「シェア」する。 【ポイント】空き家提供者は家を提供する代わりに無料で家を壊してもらうことができ、空き家利用者は家を減量するという条件の代わりに無料で家を手に入れることが出来 る。減量だけではなく、モノづくりのワークショップを行うことでリバウンドさせる空 き家もある。短期間の空き家利用であるが利用者が津南町に簡単に移住体験ができるというメリットがある。 【効果】空き家問題の解決、人材育成、大地の芸術祭の拡張

(5)クリエイティブ・ハイキング

ハイキングによってプログラム全体をつなげることが実現し、地域全体の魅力を体験す ることが出来る。また、津南町の課題である交通の不便さを「歩く魅力」へと転換する取 り組みでもある。ハイキングのコース設定は、四季の変化や水の豊かさ、「雪のおかげ」な どの「自然を体験すること」と「地域内外の人の交流促進」を柱とし、地域の様々な人々 の協力を得ながら運営する。 

◯コース例:津南町には多様な形で「雪」が関係しており、さらに、冬の豪雪によりたく さんの雪解け水が信濃川に流れ込み、津南町の生活の基盤である「水」を得ることが出来 る。この流れをプログラムとして取り入れることで「雪のおかげ」である水の豊かさを感 じることが出来る。

5-3 「シェアリング津南」(運営組織)

「シェアリング津南」は、「津南ごっつおミュージアム」の運営を中心に、津南町の人と 組織同士をつなげるDMO組織として役割を持っている。さらに、「津南ごっつぉミュージ アム」をはじめとする地域での取り組みの持続的なものとするために、地域の担い手とな る地域公共人材を育成する役割を有している。

(1)運営組織としての役割

 津南ごっつおミュージアムの運営組織として、拠点の管理、町民が参加しやすい環境づくりを行う。

(2)中核組織としての役割

 行政組織、民間組織、市民組織、地域住民をつなげることと、役割分担を行うことで 更なるまちづくりの活動を行うことが出来る。そして、共通の目標づくりや情報の共有 を行うことで津南町全体にまとまりを作る。

(3)観光業としての役割

 地域資源を観光価値として高めるために「マネジメント」「マーケティング」を行い、 戦略的に観光客を呼び込む提案を行う。

(4)市民主体のまちづくりの促進

 町民がまちづくりの活動に参加しやすい環境を作ることで、市民の意見の反映や地域 活性化につなげる。

(5)地域公共人材育成プログラム 

【概要】地域公共人材とは「ヒト、モノ、カネ、情報」など地域における様々な資源をコーディネートすることなどにより、活動を創出し活性化させ、持続可能なものとしてい くマネジメント能力を持った人材のことである。地域公共人材プログラムでは地域外へ の情報発信の仕方や「マネジメント」「マーケティング」能力を見つける講座を設ける。

【ポイント】津南町には地域遺産を活用して津南町の良さを伝える活動をしている組織が 多くあるが、中には自分たちの活動をどう発信すればよいか分からない組織もある。

【効果】

◯地域外への情報発信の手段と観光業に必要なノウハウを取得 :効果的な情報発信を行うための HP のつくり方を取得するだけではなく、地域資源を 観光資源としてマネジメントするノウハウを学ぶことで観光価値の高い商品の開発、活 動の展開を行うことが出来る。

◯学習する機会と環境の提供 :まちづくりのための専門的な知識を学ぶことが出来る機会と環境を提供することで、 津南町の人は新たな可能性や生きがいを見つけることができ、自信につながる。 

◯人材育成のサイクルを生み出す :多様なノウハウを身に付けた地域公共人材は「シェアリング津南」の一員として「津 南ごっつおミュージアム」の運営を行い、実践を重ねることで次の地域公共人材の育成 を行うというサイクルが生まれる。


6章 まとめ:津南「ごっつお」ミュージアムの可能性

「津南ごっつおミュージアム」は、津南町の地域資源を再確認、再発見、共有すること によって高められた地域への愛着や誇りを基礎としている。さらに、その地域資源を発信、 継承、発展させることで、交流人口の増進及び居住環境の向上を両立させる取り組みであ る。外発的な資源だけに頼るのではなく、外発的なものと内発的なものを、自分たちの身 の丈に合った取り組みを通して紡いでいくことによって、津南町の「地域らしさ」の可能 性を最大化することになるのではないかと考えている。


【参考文献】

・津南町総合振興計画(平成 28 年度~平成 32 年度)、津南町役場、平成28年 

・津南の料理集作成委員会「昔なつかしい 津南のごっつぉ」滝沢印刷、平成22年 

・大原一興「エコミュージアムの旅」鹿島出版社、1999 年 

・HP「地域公共人材大学連携事業」(http://www.ryukoku.ac.jp/uni_cola/pp/PP20100707.pdf) 

・ディスカバージャパン編集部「地方創生の切り札 DMOとDMDのつくり方」エイ出版社 2016 年 

・レイチェル・ボッツマン「シェア 共有からビジネスを生み出す新戦略」NHK 出版、2016 年



日本公共政策学会・学生政策コンペ 2014 in 京丹後

一人ひとりの幸せを育む京丹後モデル -食と農を「リ・デザイン」する多主体協働の取り組み-

         

 ひとり一人の幸せを育む京丹後モデル

ー食と農を「リ・デザイン」する多主体協働の取り組みー

大東文化大学環境創造学部 齋藤博ゼミ

代表者:仲田拓矢、発表者:佐川太基、奥貫愛理 

参加者:白鳥綾、馬場光太朗、張滔、唐欣、宋莹、後藤翔太、平野沙織、中澤克仁、高橋健太


1章 はじめに 

 現在、京丹後市は、若者の域外流出や人口の高齢化による農業をはじめとする地場産業の担い手が不足している。その結果、地域社会の基盤となるコミュニティが弱体化し、京丹後市の財政も厳しい 状況にある。このような現状は、地域の活力を失わせ、その結果、京丹後で暮らし、働く「一人ひと りの幸せ」が損なわれようとしている。そこで、本論文では、市民「一人ひとりの幸せ」を育むため に、京丹後市の地域資源としての「農」、そして、京丹後の自然が育む「食」を「リ・デザイン」し、 地域に活力を生む「京丹後モデル」の提案を行う。提案の基本的な方向性は、多主体協働の取り組み によって持続可能で真に豊かな地域社会への道筋を模索することを目的としている。 

【「丹後コラ弁」プロジェクトが実現する一人ひとりの幸せ】

 京丹後の様々な地域資源(ヒト・コト・モノ)が「お弁当」という小さなハコの中で化学反応を起 こし、地域の新しい活力を生み出すことを目的としている。「丹後コラ弁」は、いわゆる、一般的な 「食」をテーマとしたまちおこしで見られる、地元で採れる美味しい食材を商品化して、経済的な利 益を得ることだけが目的ではない。京丹後という地域社会の基盤である地元コミュニティを原動力と して、京丹後の長寿や健康を支えた食文化の知恵を活かし、さらに、「メディア」としてのお弁当の 可能性を追求したものである。

【中間支援組織「三方Happy!」が核となる協働の布陣】

「丹後コラ弁」は、行政だけでなく、地域の担い手の総力を結集することによって実現する。その ために、生産者や民間企業、地域住民や市民組織、そして、行政やその関係団体が連携し、相互補完 し合う協働の布陣を形成することが必要となる。そこで、この協働の布陣の中核となり、様々な主体 をつなぎ、また、個別の主体では実現し得ない効果的な情報発信や人材育成等を行う中間支援組織が 「三方Happy!」である。


2章 調査・研究の方法

 まず最初に、プレ現地調査現地調査(H25.12.27-28)において、資料収集や簡単なヒアリングを通し て地域の全体像の把握を行った。さらに、本調査に向けた準備として、文献調査を中心として、より 詳細な京丹後市の現状や課題の把握を行った。これらの事前調査の結果を踏まえ、京丹後市役所への ヒアリングを中心とした現地調査(H26.3.24-26)を行なった。この調査では、市役所(市民協働課、 観光振興課、企画政策課、商工振興課)へのヒアリング、及び、現地踏査を行った。さらに、東京で 開催されている「東京京丹後人若手会」(第一回 H26.6.7‐高円寺 第二回 H26.9.6‐荻窪)に参加 し、京丹後地域出身の方々から京丹後に対する思いや出身者ならではの意見等を聞くことができた。

 また、京丹後市の現地調査を分析した結果京丹後の将来を考えるために、「食」「農」がキーコン セプトとすることとなった。そして、「食」と「農」に関する具体的な政策提案の立案を行うために、 大東文化大学が位置する関東地方に於ける先進的な取り組みについて検索し、サンバファーム(千葉 県山武市)、株式会社FIO(東京都八王子市)、株式会社タニタ(東京都板橋区)を事例研究の対 象とした。そして、「人材の育成」「販路の開拓」「情報の発信」「健康からの食へのアプローチ」 等の取り組みの成功要因や課題について、ヒアリング調査(サンバファーム:H26.8.8、FIO:H26.8.8、 タニタ:H26.9.16)を通して明らかにしている。

【小論文の構成】

 1章 はじめに :テーマ解題 :研究の目的

 2章 調査・研究の方法 :調査概要 :論文の構成

 3章 京丹後の課題と魅力 :地域への誇り :農業について :食文化について :コミュニティについて

 4章 事例研究 :サンバファーム :(株)FIO :(株)タニタ

 5章 政策提案:「丹後コラ弁」 :「三方 Happy!」 

 6章 ま と め

 以下、本論文は、課題・魅力を中心とした京丹後の現状認識(3 章)、政策提案のための事例・研 究(4 章)、政策提案(5 章)、まとめ(6 章)で構成されている。


3章 京丹後の課題と魅力 

3-1 地域への誇り

 京丹後市では、自殺者数の多さが大きな課題として認識されている。2007 年度の京丹後市自殺の ないまちづくり行動計画によると、京丹後市の自殺者は、32 人となっており、自殺率も平成 17 年に は 23.9%と全国的にも見ても大きな数字と言える。さらに、自殺者の内訳をみると全体の半数以上と なる約 57%が自営業者であり、2008 年に起きたリーマンショックによる経済の落ち込みが関係して いると推測される。特に、京丹後市の主要産業である繊維産業と機械金属工業をはじめとする第2次 産業の落ち込みが激しく、1995 年には約 17,000 人いた2次産業の従事者が、2010 年には約 9,200 人 と大きく減少している(京丹後市企画政策課ヒアリング)。リーマンショックの影響は経営者だけで なく、従業員の生活にも暗い影を落としている。

 京丹後市は、その対策として「UIJ ターン」を促進するための京都府北部 U・I ターン就職支援な どの就業支援策や、セーフティ・ネットをより強固なものとするための「幸福のまちづくり研究会」 (2012 年)を設立するなど、様々な支援が行われている。これらの支援が功を奏して、近年では京丹 後市の自殺者数は減少し、また、地元就職率に関しては 2005 年の 6.7%が 2012 年には 5.3%に減少し ている(2012 年、京丹後市統計表)。雇用問題は人口減少や高齢化を加速させる大きな課題である。 「自分の子供の京丹後市での就職には反対」という住民の声は単なる経済的な課題だけではなく、住 民自身が地域への誇りを失いつつあると実感した。

3-2 少量多品種の作物を生産する農業

 京丹後市の農業は、産地規模が小さく少量多品種の作物が生産されていることが特徴である。その 中でも、「丹後米」は生産量が少ないながらも特Aランクに認定されている。また、その約7割が消費者に直接販売されており、多様な買い手と繋がることによって、京丹後の農業が持つ潜在力を発揮 することが可能だと言える。「丹後米」以外にも、「京たんご梨」や「京かんしょ(さつまいも)」 等、数多く存在している。この京丹後の農業が有する潜在能力を発揮するための課題として、農業生 産者の高齢化による耕作放棄地の増加が挙げられる。そこで、現在、高齢者のみで農業を営んでいる 生産者には、地域の若い生産者に無料で耕地を貸し出すことで耕作放棄地を減らす取り組みが行われ ている。このような新しい農業の担い手を育成することが課題として挙げられる。

3-3 健康・長寿を支える食文化

 京丹後の魅力の一つとして、「長寿のレシピ」(京丹後市健康推進課、2013 年)に代表される長寿 を支える食文化が挙げられる。京丹後市は全国平均の約 2.5 倍もの 100 歳以上の長寿の高齢者がおり、 市も「食」による健康長寿の実現を目指している。「食」による健康、長寿の取り組みは、「長寿の レシピ」による情報発信だけに留まらず、地域内の絆を強くするためのイベント「食と文化の祭典」 が開催されている。このイベントには市の他に高校生も料理講師として参加しており、若者による食 文化の伝達もされている。さらに、このイベントは、「食」を通して地域住民の交流を生むだけでは なく、地域の若者にも地元の食文化の理解を深め、愛されることによって、自分たちの地域の食文化 に誇りを持つことへと繋がっていくものと言える。

3-4 コミュニティ

 京丹後市市民部市民協働課のヒアリングによると京丹後市には 10 世帯以下の小規模なものから、 2,000 世帯を超えるものまで、様々な 225 の集落が存在している。さらに、その集落内における地域 住民のつながりが非常に強いものである。住民が日常生活の中で気づいた地域の課題を、集落のリー ダーである区長に伝え、さらに、集落だけでは解決出来ない課題については、市長をはじめとする市 役所に直接伝えられ、自分達の課題を(市役所の協力を得ながら)自分たちで解決するということが 根付いている「地域協働型小規模公共事業」などが実践されている。

 市役所へのヒアリングの中で、「市役所から材料が提供され、住民自ら無収入もしくは自腹で道路 補修する」という、いわゆる、行政と地域住民による「地域協働」のエピソードがあった。これは、 地域への関わりが希薄な住民が多い都市部における「地域協働」とは大きく異なり、地に足の着いた 「地域協働」の取り組みと言える。また、集落内で完結している(=集落間の関係は希薄である)地 域のつながりを再編集することにより、地域住民、市役所、地元企業、さらには、地域外の様々な主 体とのより良い多主体協働が生まれる可能性を有していると言える。


4章 事例研究

4-1 千葉県山武市「サンバファーム」の「人材育成」と「販路開拓」 

【調査目的】京丹後市には「丹後農業実践型学舎」があり、農業技術の指導を行っている。行政の職員 をはじめ様々な人が技術職員として農業指導を行なっているが、そのスタッフの数が十分とは言えず、 多くの新規就農希望者を受け入れることが難しい状況である。そこで、地域コミュニティが中心とな って、就農支援を進めている事例として、千葉県山武市の「サンバファーム」の調査を行った。

(1)概要 サンバファームの設立者は農業未経験である夫婦が、奥さんの妊娠を機に子供に安心安全な 野菜を食べさせたいという思いで、2011 年から山武市において、夫婦二人で農業営む会社である。 

(2)新規就農者を迎え入れる仕組み:サンバファームの代表者は、新規就農者の受け入れを行っている 「さんぶ野菜ネットワーク」に参加することで農業についての知識を身に付けている。「さんぶ野菜 ネットワーク」とは、農協の有機部会から自立する形で設立された有機農業者団体・販売法人であり、 有機農業を中心として、農産物の集荷・販売等を行う組織である。山武市地域の最大の問題は農業後 継者の不足であるため、「さんぶ野菜ネットワーク」は新規就農者の支援に特に力を入れた。その新 規就農者育成プログラムの内容は、地元の農家から、農業に関する実践的知識やを得、地域の様々な 人との繋がりのきっかけとなっている。また、農地の斡旋、住居の提供、販路の紹介といった新規就 農者が直面する課題や障害、そして、農業をするにあたっての心理的な不安を取り除いている。他地 域から来た新規就農者が上記の研修プログラムを通して、地元農家との間に信頼関係を構築している。

(3)地域に支えられた多様な販路の開拓: サンバファームは「さんぶ野菜ネットワーク」以外にも多 様な販路がある。例えば、「農園セット」による個人販売、マルシェへの出店、都内飲食店への納入 等の販路を獲得し、その多くは地域の農家の紹介によるものとなっている。消費者のニーズついても、 地域の農家を通じた情報収集を行い、生産者と消費者間の顔の見える関係によって信頼関係が生まれ ている。さらに、農作物を加工した製品により、更なる販路の拡大を実現し、消費者がそれらの食材 に触れることで、生産の現場に興味を持ち、農園に足を運ぶことで更なる顧客を獲得している。 

【サンバファームの取り組みから考える京丹後市への政策提案のポイント】 

 ・リーダー農家の人材育成による農業の持続可能性 

 ・多地域との連携による情報共有や販路開拓 

 ・各々の力で多方面に販路を切り開いていく自主性

4-2 東京都八王子市「株式会社 FIO」の「情報発信」

【調査目的】京丹後市では豊かな自然が育む多くの資源があるが、情報発信力が不十分である。そこ で、多彩な情報発信を行う(株)FIOの運営方法から、効果的な情報発信を考えることが目的である。 

(1)概要 (株)FIOは 20 代の若者が中心となり運営されている。3 人で立ち上げた会社は現在 10 名程 度のスタッフで、東京都八王子に拠点に農業を行っている。また、農業体験やインターンシッププロ グラムを通して、積極的に地域と関わりを持ちながら多彩な活動を行っている。 

(2)顔の見える情報発信:(株)FIOでは農業だけでなく幅広く活動を行うために、様々な人との協力関 係を構築している。特に、消費者の要望に直接触れ、消費者に近い感覚で農業を行っている。このよ うな関係を構築する重要な情報発信/受信の場が「FIOマルシェ」である。この「FIOマルシェ」 では、顔の見える交流を促進することに主眼がおかれている。さらに生産者と消費者間の関係だけで はなく消費者間の関係構築、つまり「口コミ」を生むことで情報発信力を高めている。 

(3)戦略的な情報発信:(株)FIOでは販売戦略として日常的な野菜は市価よりも安く、贈答用の商品は 付加価値を高めることで高収益を実現している。市価よりも安く販売することで(株)FIOの名前を広 め、後に、高い収益が見込める商品を贈答品として買ってもらうことを目指している。まず消費者と の間に信頼関係を構築し、その信頼に基づいて高額な商品を販売するという戦略である。また、上述した地域と積極的に関わることが(株)FIOへの認知度を高めることに一役買っている。 「バーベキュー」や「農業体験」など、認知度を高める機会を創出している。

(4)農業のイメージを変える情報発信:本調査研究で(株)FIOに着目したきっかけとして、後継者不足 に悩む農業を生業としている「(株)FIOには、なぜ若者が集まるのか?」というものであった。(株)F IO若者を集める要因として、(株)FIOの活動方針である「楽しくやる」ということが重要であると いうことだった。(株)FIO設立メンバーは、まず、自分自身が楽しみながら活動することを心がけて きた結果、外部から見た時のイメージとして、「(株)FIOに行けば何か得られる!」「何か面白そう!」 というイメージが作られ、若者を惹きつけている。さらに、その活動をより多くの人に知ってもらう ために、ツイッターやフェイスブックといった即時性の高いメディアをうまく活用している。このよ うな活動自身の「楽しさ」と、ライブ感のある情報発信により、農業の潜在的担い手としての若者が 持つ農業のイメージを変えることに成功している。 

【(株)FIOの取り組みから考える京丹後市への政策提案のポイント】 

・顔の見える情報発信で信頼を構築する 

・消費者のニーズに合わせた商品販売 

・農業の「楽しい!」を伝える情報発信

4-3 東京都板橋区「タニタ食堂」の「食を通した幸せづくり」の取り組み

【調査目的】一人ひとり最も基本的なの幸せについて、「食」と健康の面から取り組んでいる事例と して、健康器メーカーから飲食分野に事業展開を果たした「タニタ食堂」を調査した。 

(1)概要 :近年、大きな注目を集めている「タニタ食堂」は、健康器具メーカーである(株)タニタの社員 食堂を一般向けに開放したものである。この取り組みは近年大きく注目され、「体脂肪計タニタ社員 食堂~500kcalの満腹定食~」(2010 年 1 月)も発売されている。

(2)「科学的アプローチ」による幸せづくり:タニタ食堂では食事を楽しむだけではなく健康への意識 を高めるためにカウンセリングルームでの相談や健康セミナー、計量器による食事の栄養バランスの 計測を行っている。また、実践を吃して、より多くの人に栄養バランスのとれた食事が、健康に直結 しているということを実感する機会を創出している。そして、実践の中で証明されたという信用は、 タニタ食堂での取り組みが、健康への確かな道筋だという認識を定着させる結果となっている。 

(3)健康志向の「ユニバーサル化」:一般的に女性の多くは食事のカロリーや体重などに気を配り、健 康への意識も高い傾向がある。また、近年、メタボリック・シンドロームという言葉が一般的に広が り、生活習慣病への備えとして、男性の健康意識も高まっている。さらにタニタでは小学生に対して の食育活動を行うことで、自分の健康への意識を高める重要性について伝えている。 

(4)「食堂から地域へ」広がる健康の取り組み:(株)タニタは 2014 年 8 月に埼玉県鶴ヶ島市との間に「健 康増進施策の相互連携強力に関する協定」を結んだ。この協定では市民に健康講座を開いたり、血圧 測定などの機械を市民が簡単に利用できる体制作りなどを行っている。行政側は(株)タニタのノウハウ を利用し、タニタ側は行政が有する公共性、信頼性を活かし、より多くの人が健康への関心を高める 機会を創出することに成功している。タニタと行政は、「多くの人に健康になってほしい」という目 的を共有することによって、この官民のパートナーシップを実効性の高いものとしている。 

【(株)タニタの取り組みから考える京丹後市への政策提案のポイント】

 ・「健康」と「食」の関係を実感できるように分かりやすく伝える 

・多主体の取り組みにより健康意識を拡大させる 

・一人ひとりの生活に合わせた健康意識の啓発


5章 政策提案:「丹後コラ弁(たんごこらべん)」を軸とした「京丹後モデル」

 「丹後コラ弁」とは、京丹後の様々な人的、物的、社会的資源を動員することで、京丹後の課題/ 魅力でもある「農」と「食」を「リ・デザイン」するプロジェクトである。「丹後コラ弁」の「コラ」 は、「協働」を意味するコラボレーション(Colaboration)の「コラ」であり、お弁当の持つ「柔軟 性」や「機動性」を最大限に活かした地域協働の取り組みである。そして、この「丹後コラ弁」を支 える協働の布陣の中核となる中間支援組織である「三方 Happy!」を合わせて提案する。 5-1 「丹後コラ弁」の基本コンセプト:一人ひとりの幸せを実現する「三方良し」

 かつて、近江商人がその商いを行う際の基本的な考え方に「三方良し」という考え方がある。つま り、「売り手良し」=経済的な利益を得ることが出来る、「買い手良し」=入手したモノやサービス で生活が良くなる、「世間良し」=「 売る⇔買う」という経済活動が社会貢献につながり、(地域) 社会全体の質が向上するということである。「丹後コラ弁」プロジェクトは、お弁当の持つ「柔軟性」 と「機動性」を活かし、一人ひとりの幸せを実現する「京丹後モデル」のを提案する。

5-2 「丹後コラ弁」が創出するHappy!

(1)「売り手(含む、作り手)」のHappy!「ブランド化、販路、情報発信、人材育成」 

【ブランド化に繋がる商品開発・企画】様々な食材を用いて様々な惣菜を詰めあわせることが簡単に出来るお弁当の「柔軟性」を活かして、 京丹後の多様な魅力を凝縮する。

⇒ 現代社会で重要性を増している価値としての「食の安全・安心」「健康・長寿」等を具現化する ことで、飲食業としての需要を喚起する。

【多様な販路】持ち運び出来るというお弁当の「機動性」を活かし、様々な場所や場面での需要に応える。

⇒ 地域内の店頭での販売をはじめ、移動手段の確保が困難な高齢者世帯や集落への宅配、学校病院 への給食、イベント会場へのケータリング、駅やサービスエリアでの観光客向けの販売、そして、大 阪、京都等の都市部における物産展等への出店等、様々な販路を獲得する。 

【訴求力のある情報発信】文字や映像による「目と耳」にのみ訴える情報発信とは違い、「匂いを感じ、食感を楽しみ、そし て、その味に舌鼓を打つ」五感に訴えるメディアとして京丹後の魅力を伝える。

⇒ 京丹後の魅力を五感に訴えることにより、お弁当を届けることの出来る広範な地域に、より多く の京丹後のファンを獲得する。

【地域全体で人材を育成する】お弁当を作るという営みは、料理を作る人、食材となる作物を育てる人、お弁当箱を作る人、そし て、運ぶ人、販売する人等、様々人が携わることが出来る。

⇒ 商品としてのお弁当を売るだけでなく、お弁当を支える様々産業に従事する人たちが協働の布陣 を形成することで様々な産業に活力が生まれ、一軒の農家や個人で行うことが難しい人材育成を行う。 

【さらに、海外展開へ】ヨーロッパを中心とした海外においては、お弁当を作る文化があまり浸透していない。しかし、近 年、その栄養バランスの整った彩り豊かな日本のお弁当に注目が集まっており「BENTO」ブームが起きている。そこで京丹後の長寿のレシピ等を盛り込んだ「丹後コラ弁」海外展開することで、京 丹後発の日本ブランドの確立を目指す。

(2)「買い手」のHappy!(食の安心・安全、健康・長寿、地域への積極的な関わり) 

【商品としての価値1(食の安心・安全)】お互いに顔の見える地域の担い手が協力して作る「丹後コラ弁」は、地域への愛着や誇りの具体的 表現手段であり、その品質が高いレベルで維持される。

⇒ 食品における「安心・安全」という価値は日増しに高まっており、その価値が地域への誇りや愛 着によって支えられる「丹後コラ弁」は、買い手にとっても有り難い商品であり、大きな満足を得る。 

【商品としての価値2(健康・長寿)】長寿の里である京丹後市に根付いている食文化を取り入れた「丹後コラ弁」は、高齢化社会の進展 した現在、欠かすことの出来ない「健康・長寿」価値を消費者に届ける。

⇒ 「丹後コラ弁」で「長寿・健康」を実現する食事を取るだけではなく、その背景にある食文化に ついて「長寿のレシピ」を通して知ることで、食習慣の改善の第一歩となる。 

【地域への積極的な関わりのきっかけづくり】「丹後コラ弁」の担い手は生産者等の「プロ」だけではなく、地域の子どもたちやお母さん、など、 「様々な人の様々な関わり方」を受け入れる。

⇒ 例えば、駅弁のパッケージデザインを地元の高校生が考案したり、「食の文化祭」で行われてい る料理の持ち寄りの取り組み等、地域の人たちが持っている様々な「得意技」を活かすことで、地域 に根づいた京丹後らしさや地域への愛着を生む。 3「世間(地域社会)」のHappy!(福祉、教育、コミュニティ活性化、観光振興) 

【福祉分野に期待できる効果】地域社会が高齢者や児童等を支える「地域福祉」の考え方を具現化するために、「丹後コラ弁」を 高齢者施設や保育園等の給食として提供する

⇒ 元気に働き、学ぶ人達だけでなく、京丹後市民の誰もが、生まれ育った地域の味に触れることに よって、地域に生きることの喜びや地域への思いを育む。

【教育分野に期待できる効果】学校の家庭科の時間の調理実習において、地域の食文化を受け継いできた地域の「お母さん」が先 生となり、「丹後コラ弁」のレシピと地域の採れたて食材を提供する。

⇒ 京丹後ならではの「食育」の実践を通して、高血圧や心臓病等の現代の病を予防する食習慣の改 善を、子供を通じて地域の過程に広げる。

【コミュニティの活性化で期待できる効果】広範な地域に点在する各集落が、それぞれの特色を活かした「丹後コラ弁」を作り、一同に会する。 

⇒ 日常的に交流することが少ない各集落間の交流を図ることで、京丹後全体のまとまりを創出する とともに、京丹後の持つ多様な自然や歴史を再認識する。

【観光分野で期待できる効果】京丹後の地域ブランドを「丹後コラ弁」によって高め、他の地域との差別化を図る。具体的には、 地域の人と一緒に、地元食材の収穫やお弁当のづくりを行う体験型ツアーを実施する。

⇒ 単なる観光ではない地域に密着した体験が、旅行者のかけがえの無い「思い出」となり、リピ ーター化を促進する「思い出産業」を創出する。

5-3 協働の布陣の核となる中間支援組織「三方 Happy!」

 「三方 Happy」は、京丹後地域におけるまちづくりを推進する協働の布陣の中核をなす中間支援組織と しての役割を果たす。そして、上記の「丹後コラ弁」プロジェクトを推進する。 

(1)京丹後を訪れたくなる情報発信

 「三方 Happy!」は京丹後の魅力をより協力に発信するため、大阪や京都、東京等の大都市に、アンテ ナショップ/現地事務所を兼ねた「三方 Happy!サテライト」を置き、五感に訴える情報発信を行うとと もに、各都市に於ける京丹後に期待されるニーズを掘り起こす。また、潜在的新規就農者としての若者に京 丹後の魅力を訴求する情報を発信を行う。

(2)地域の可能性を最大化するためのサポート

 「三方 Happy!」は地域の潜在的なニーズを掘り起こし、そのニーズに対応するために必要な人的、社 会的、経済的な資源についての情報提供を行う。

(3)地域の担い手となる人材を育成する 

 地域(農業)の担い手を地域で育てるために、地元農家とのネットワークを活かし、先生となる農業生産 者、教室となる田畑の紹介や、新規就農者が地域の生活に溶け込むためのコミュニティづくりを行う。

 (4)地域組織のスタートアップを支援する 

 京丹後地域で地域を活性化し、地域の生活を豊かにしたいという志を持った人(地域の内外を問わない) が行う組織づくりやビジネス支援として、組織運営や資金調達、人材確保に関するコンサルティングを行う。 

(5)地域の内外を問わず様々なネットワークを構築する 

 日常的には交流することのない、目的や活動内容が異なる人や組織の連携を促進し、新しい地域の活力を 創出する。例えば、地域内においては、新規居住者×地元住民や、都市部のNPO×地元農家等、異なる主 体による創発が生まれるネットワークを構築する。


6章 まとめ:「京丹後モデル」が高める地域社会の持続可能性

 本稿で提案した「京丹後モデル」は、中間支援組織「三方 Happy」の核となる地域協働の布陣が、「様々 な人が様々な方法で」地域への積極的な関わりを持つことが出来る。「丹後コラ弁」プロジェクトが「食」 と「農」を「リ・デザイン」することにより、京丹後で暮らす人々の地域への誇りを高めることで、「一人 ひとりの幸せ」の実現を目指すものである。そして、このモデルは、様々な地域においても、その地域性を 活かした取り組みとすることによって、地域社会における経済、社会、環境の持続可能性を高めることとな ると考えている。


参考文献

・京丹後市(2006) 「第一次京丹後市総合計画」 

・京丹後市(2010) 「第一次京丹後市総合計画・後期基本計画」 

・京丹後市健康推進課(2013年) 「長寿のレシピ」 

・「みんなの介護」http://www.minnanokaigo.com/news/N39851081/ 

・「網野高校」https://www.kyoto-be.ne.jp/amino-hs/cms/?page_id=27

・「京丹後市/ホーム」http://www.city.kyotango.kyoto.jp/ 

・「京丹後市 自殺のないまちづくり行動計画」

http://www.city.kyotango.kyoto.jp/kurashi/kenko/suicideprevention/documents/plan.pdf



日本公共政策学会・学生政策コンペ 2013 in 川越

「不易流行都市」川越 -「スキマ」を使った持続的なまちづくり-


「不易流行都市」川越

ー「スキマ」を使った持続的なまちづくりー

大東文化大学環境創造学部 齋藤博ゼミ
代表者:竹内希、発表者:星義人、竹内希
参加者:五十嵐まり、岩崎浩介、上野未貴、木村保裕、田口絵里佳、橋本果澪、眞下俊、三上昂太郎

1章 はじめに

1-1 研究・提案の目的

 現在、全国的に人口減少や少子高齢化によるコミュニティの衰退が進み、その結果、財政難、 まちの担い手不足等が課題となっている。川越市も同様の課題を抱えているが、蔵造りの街並み や多くの寺社等の物的資源、まちづくりに積極的なNPO団体や自治会等の地縁組織などの地域 資源を活用した観光まちづくりを積極的に推進している。更に、川越市に訪れる年間 6,237,000 人(2012 年)の来街者も川越市の有する人的資源と言える。本提案では、川越にある様々な資 源の動員を進め、今まで見過ごされてきた「潜在的資源」を活用することによって、住み続ける ことができる豊かな川越を実現させることを目的としている。ここで言う「潜在的資源」とは、 川越市にある様々な「スキマ」である。「スキマ」とは、空き地・空き家・空き店舗をはじめ、 公園や公民館などの公共施設、更に、地域に古くからある寺社や仏閣などである。これらの地域 資源の幾つかは既に、川越の魅力の一部となっているものもあるが、特に、城下町として栄えた 川越の町割りが生み出した短冊敷地の有効活用に着目している。

 また、川越の将来像を、「不易流行」という考えをヒントにしながら提案を行っている。「不易」 とは、「変えてはいけない・変えられないもの」を表し、「流行」とは「常に進化し、変わってい くもの・変えていくもの」である。川越市にある、「不易」とは蔵の街並みに代表される歴史や 文化、それを支える地域の人々の誇りである。そして、川越の抱える課題解決・魅力向上を実現 するため、「不易」な地域の文脈に寄り添いながらも、新しい知恵や工夫により「スキマ」をま ちづくりの舞台と変えていくことを、川越における「流行」としている。

1-2 政策提案の概要

政策提案を行うにあたり、まず川越市の基礎的な情報を収集すると同時に、まち歩きを行いな がら地域への理解を深めていった。そして、まち歩きにおいて発見した様々な「スキマ」が、川 越におけるより豊かで持続的な地域社会を実現するための地域資源であると考えた。そして、川 越中心市街地における現地踏査を行い「スキマ」の実態を調査するとともに、その「スキマ」で 展開する活動の内容や主体についての国内外の事例調査を行った。さらに、川越市の都市計画や まちづくり活動、更には、行政施策や地域住民の活動等を明らかにするために、川越市役所等へ のヒアリング調査を行っている。また、今回の制作提案をより現実的かつ包括的なものとするために、滋賀県長浜市におけるまちづくりの調査を行った。周知の通り、長浜市は川越市と同様に、 歴史的な地域資源を活用した観光まちづくりの先進地域であると同時に、(株)黒壁という新しいま ちづくりの担い手であるまちづくり会社を軸とした協働の地域運営を実現している。

 以下、2章「川越市の調査分析」では、文献調査、ヒアリング調査、現地踏査、事例研究を行 い、3章「都市の『スキマ』を活用する政策提案」として、「繋げる」、「集める」、「育てる」と いう3つの軸による川越市に対する政策提案を行っている。そして、4章は全体のまとめとして いる。


2章 川越市の調査分析
2-1 川越の歴史的文脈

 川越のまちを語る上で「蔵」の存在を抜きに語ることは出来ない。「蔵」は地域に深く根付い ており、地域の生活を根底から脅かす火災に対する人々の知恵と工夫の結果と言える。江戸時代 から度々発生した大火の際に焼け残った土蔵を目の当たりにし、財力のある商人が中心となり、 一家に一つの蔵を造ることによって、まちを挙げての火災に対する備えをするに至っている。ま た、川越の街並みの基礎には、川越城を中心とする城下町の町割りがあり、現在の街の基本的な 姿に大きな影響を与えている。明治期以降においては、鉄道が開通し、川越の賑わいの中心が、 札の辻界隈から現在の東武東上線川越駅周辺に移動したことにより、正確の異なる街の中心が2 つ生まれることとなった。さらに、現代においては、人々の生活様式も変わり、川越の中心市街地の多くの場所では、間 口が狭く奥行きが深い「短冊敷地」の有効な利用が難しくなっており、多くの「スキマ」が発生 している。

2-2 データから見る川越の現在

 川越市の人口は平成 25 年現在で 348,342 人であり、平成 2 年から平成 22 年の 20 年間で 37,816 人増加している。その一方で、0 歳から 19 歳までの人口が 19%なのに対し、65 歳以上の人口 は 23%、ほぼ 4 人に 1 人の割合であり、全国平均の 35%よりは低い値であるが、高齢化が進ん でいる。その一方で、川越市は、東上線沿線、および埼玉県でも有数の大都市であるため、商業 や業務の集積地でもある。また、川越を訪れる観光客数は年々増加しており、平成 24 年度は 6,237,000 人と前年比+3.5%となっている。

2-3 ヒアリング調査による川越のまちづくり

 まち歩きや文献調査、現地踏査の中で見えてきた川越の姿についてさらに深く理解するために、 「川越市役所」「(株)まちづくり川越」「特定非営利法人 蔵の会(予定)」へのヒアリングを行った。

【ヒアリング対象と実施日時】

・川越市役所(政策企画課・市民活動支援課・産業振興課)2013年8月6日 14時~2

・株式会社 まちづくり川越 2013年9月2日 14時~ ・川越蔵の会(予定)

【主な質問項目】

・川越市の将来像について、及び、その実現方策 ・NPOと市民組織の役割位置づけ、及び、地域協働の取り組みについて 等

 ヒアリング調査の目的は、川越のまちづくりの全般に関する認識を深めると同時に、政策提案 の鍵となる地域協働の取り組みについての実態を把握することである。また、このヒアリングを 通して、自治会活動力の活発さや川越市の地域協働への積極的な取り組みが行われている一方で、 新しい地域の担い手に成り得るNPOや任意の市民団体と、行政や自治会等の既存の地域の担い 手との連携をさらに図ることの必要性があることが分かった。その他にも、ヒアリングで得た内 容に留意しながら3章において、政策提案を行っている。

2-4 現地踏査から見た川越の「スキマ」

 川越のまちづくりを考える上で着目した「スキマ」についての現地調査を行った。調査範囲は 東武東上線川越駅~川越一番街商店街~川越市役所~市立博物館・美術館~喜多院という、中心 市街地の回遊ルート沿いとなっている。また、調査項目としては、「スキマ」の利用現況を中心 に地図では分かりにくい状況についての調査を行った。その結果、「スキマ」は上記の範囲内で 点在していると同時に、回遊ルート沿いにも多くあることが確認出来た。3章の政策提案では、 調査結果に留意し、上記の回遊ルートにある都市の核となる施設や地域と、その他の住宅を中心 とする地域の結節点としての可能性を考えている。

2-5 長浜市の調査から考える政策提案のポイント

 齋藤ゼミでは、長浜市のまちづくりの取り組みをより深く理解するために、文献調査、及び、 現地調査(含む、ヒアリング調査:(株)黒壁 2013年2月27日)を行った。 

(1)中心市街地のまちづくりの取り組み

 明治33年に国立第百三十銀行長浜支店として建てられた、通称「黒壁銀行」をマンションに 建て替える計画に対し、地域の象徴的な建物が無くなってしまうことを危惧した地域住民による 保存運動が始まった。その後、市役所職員が地元の有力者に相談し、地元の有志たちが建物を買 い取ることとなり、「黒壁ガラス館」として再生させたことが、長浜の中心市街地活性化のまち づくりのきっかけである。その後も、地域の人から愛されている建物の改修を連鎖的に行い、まちづくりの取り組みが点 から面へと広がった。その中心的な施設である「黒壁スクエア」では、平成元年の来街者数は 9.8 万人だったのに対し、平成10年には162万人まで観光客を集めるようになった。そして、 今までシャッターばかりが目立った長浜の街に新しい店ができ、当初は積極的な関わりを持たな かった住民や商店主たちも、(株)黒壁の力を認めることで、更なるまちづくりの取り組みが展開している。

(2)まちづくり会社を軸とした協働の布陣

 長浜のまちづくりは(株)黒壁と黒壁から派生した「まちづくり役場」と「(株)新長浜計画」がそれ ぞれ役割を担い連携してまちづくりを行っている。まちづくり役場は、空き店舗の促進・コーデ ィネート、イベント事業などのソフト面を担当し、地域の店の情報を提供するなどの事業を通し てまちの「品質保証」を目指している。新長浜計画は、駐車場の管理・運営などのハード面を担 い、町並みを守るような形で、空き店舗の活用に協力している。それぞれ連携を取りながら、ま ちづくりを行ってきた。黒壁は、全国に先駆けてまちづくり会社として組織され、お手本の役割 を果たしてきた。

(3)「博物館都市構想」に基づく活性化

 長浜の中心市街地は、他の地方としの多くと同様に、1970 年代に入ると活気を失っていった。 そこで、長浜市は「博物館都市構想」を策定し、これまで市民が育んできた文化や伝統を生かし、 まち全体を博物館に見立て、「個性のある 美しい 住めるまち」にしていこうというものである。 その取り組みの一つとして開催された「アート・イン・ナガハマ」では、町全体で、アーティス トを育てるとともに、市民が町のあちらこちらで日常的に芸術作品に接することができる「ギャ ラリー・タウン」を目指したイベントである。そして、後に「ギャラリー・シティー 楽座」が 生まれ、市民がいつでも芸術作品に触れる環境が形成された。また、この「博物館都市構想」に 基づいた様々なイベントを通して、「まち歩き」という観光スタイルが確立され、長浜を訪れる 人がより深く長浜の魅力に触れ、来街者として長浜の活気を生み出している。 

(4)多くの人が訪れるまちから、住み続けられるまちへ

 長浜のまちづくりは、所謂、観光まちづくりに留まらず、住む人自身が活性化するまちづくり を行っている。例えば、「秀吉博覧会」から生まれた「シルバー・コンパニオン」は、空き店舗 を利用しながら高齢者がビジネスに挑戦する「プラチナ・プラザ」を生むこととなっている。 

(5)長浜における「不易流行」

 長浜のまちづくりは地域に根ざす「黒壁」を軸としながらも、様々な新しいテーマに基づく魅 力を生み出し続けている。当初は、それまでの長浜には無かった「ガラス」をテーマとした取り 組みを行っていた。さらに、「オルゴール」、「フィギア」といった様々なテーマに取り組むこと により、女性だけではなく、子供や男性にも楽しめる町を実現している。

【長浜の取り組みに見る政策提案のポイント】

 ・まち将来像の提示と具体化:「博物館都市構想」をはじめとする分かりやすい将来像の策定、及び、その将来像を具現化するためのハード/ソフトの環境を整える。 

・地域の担い手の創出と地域協働の布陣形成:新しい地域の担い手の創出しながら、市役所や商工会議所、そして、様々な地域組織との協働の布陣を形成する。 

・住み続けられるまちづくり:商業を中心とした観光まちづくりによる中心市街地の活性化から、住民自身が活性化するまちづくりへの取り組みを行う。

3章 都市の『スキマ』を活用する政策提案

 政策提案「不易流行都市・川越 『スキマ』を使った持続可能なまちづくり」は、次の3つの 考え方によって構成されている。①「繋げる」(グリーン・ネットワーク、スキマ・バンク)2 ②「集める」(コミュニティ拠点) ③「育てる」(人材育成プログラム)の3つである。まず、1「つなぐ」とは、既存の地域資源と地域の中に新たに設えられる様々な人を2「集め る」拠点を繋ぐことによって、今まで、ほとんど着目されてこなかった潜在的資源を活用した取 り組みを創出していく。さらに、このような取り組みを持続的なものとするために必要な地域の 担い手となる人材を3「育てる」ことを目指している。また、この政策提案は、都市に存在する 「スキマ」の活用に着目している。

3-1 グリーン・ネットワーク ~繋げる~

 東武東上線・川越前には、商業やオフィスビルをはじめとする都市機能が集積し、多くの人で 賑わっている。また、川越には、寺社や公園などが湛える緑が街行く人に寛ぎを与えている。

 本提案の「グリーン・ネットワーク」は、川越市の中心市街地の4つの核(東武東上線川越 駅+クレアモール、川越一番街商店街+市役所、川越市立博物館+美術館+川越城址、喜 多院)を結ぶ、中心市街地の回遊ルートを基本としている。さらに、この回遊ルートを軸としな がら、都市の「スキマ」におけるコミュニティ活動を創出し、人々に憩いを提供する緑を増やし、 あるいは、コミュニティ形成の場となる拠点づくりを進めていく。その結果、この「グリーン・ ネットワーク」は、観光客のための単なる回遊ルートから、住民が地域社会の一員として、安心 して、豊かな生活を実現するための空間的/社会的なネットワークとして地域の新しい文脈を紡 いでいくこととなる。

3-2 川越・スキマ・バンク ~繋げる~

「川越・スキマ・バンク」とは、「スキマ」の有効活用を促進するために、「スキマ」に関する 情報の収集・発信を行う仕組みである。所謂、空き家バンクでは、貸し手と借り手をつなげるた めの物件情報を扱うが、「スキマ・バンク」では、「スキマ」物件の情報はもとより、「スキマ」 の有効活用を促進するために必要な情報を収集・発信する。例えば、川越のまちでイベントを行 いたい人(借りて)は、自分が行うイベントに合った「スキマ」を探すだけではなく、イベント の協力者(市役所や地域NPO)や参加者(川越市民や観光客)の募集、あるいは、協賛企業や 告知方法等の情報等を得ることができる。同時に、「スキマ・バンク」は、情報提供やコーディ ネートだけにとどまらず、イベントの企画・運営などのコンサルティングも行う。更に、上記で 説明した「コミュニティ・ガーデン」や「コミュニティ・ハウス」等と、相互に情報交換を行う ことによって、川越で起きている様々な取り組みを繋いでいく。

 川越「スキマ・バンク」は、今まで明らかにされていなかった川越の潜在的資源である「スキ マ」に関する情報を収集・発信すること、そして、その「スキマ」の有効活用を促進する知恵や 工夫を、「スキマ」の貸し手・借り手と一緒に生み出していくことで、川越のまちのあちらこちらで、新たな賑わいや交流の機会が生まれ、今までにはなかった新しい川越の魅力を創出してい くための取り組みである。

3-3 コミュニティ拠点 ~集める~

(1)コミュニティ・ハウス

 コミュニティ・ハウスとは、住みながら、コミュニティ拠点としての家を運営し、様々な人と の間に、様々な形でのコミュ二ケーション提供する場である。コミュニティ・ハウスには、宿泊 施設もあり、川越に訪れた人を迎え入れることもできる。さらに、居住者自身が施設の中にある キッチンやリビング等を使い、交流プログラムやイベント、体験学習を実施することで、来街者 も含めた交流のきっかけを生み出す。この交流の拠点は、来街者が川越の理解を深めるだけでは なく、居住者をはじめとする川越の住民にとっても新しい気付きを得ることとなる。また、コミ ュニティ・ハウスで生まれるコミュニティは、インフォーマルな繋がりが持つ創発によって生ま れる「流行」を生むことを目的としている。そして、同時に、「不易」とも言える既存の「地縁 コミュニティ(町内会や自治会 等)」と新しい地域の担い手となり得る「テーマコミュニティ(N POや市民団体 等)」との協働の布陣形成の第一歩となることも目的としている。 

・「おもや」と「はなれ」

 コミュニティ・ハウスを一つの建物で簡潔させるためには大きな施設が必要となる。また、街 に対して閉じた建物におけるコミュニティ拠点には限界がある。そこで、川越の特色を活かしな がら、より豊かなコミュニケーションを実現するために、一番街の蔵の改修による「おもや」と 一般住宅の「住み開き」による「はなれ」を設ける。「住み開き」とは、自宅の一部を開放し、 趣味等をきっかけに人と人との交流を行うことである。また、「おもや」の住人を「蔵人(くらんちゅ)」、「はなれ」の住人を「街人(まちんちゅ)」 として、新しい地域の担い手となる。そして、「おもや」を中心として「はなれ」繋がることに より、「点」が「線」、そして、「面」として地域に広がりを持ち、街の回遊性が生まれることも 期待される。

(2)コミュニティ・ガーデン 

 コミュニティ・ガーデンとは、空き地を地域の庭・コミュニティの場として住民が管理する持続的な空き地の利用方法のことである。プランターやベンチ、市民農園を作り、運営していくこ とで住民や来街者の交流の場を提供し、地域コミュニティの創出や幅広い人との関わりを生む。 また、各地域にコミュニティ・ガーデンを作ることによって、地域内のコミュニティの親睦を深 め、来街者と住民とが関われる場の一つにもなる。このことにより、空き地の利用による潜在的 資源の有効活用はもちろん、持続的・生活的な回遊性の向上、新たな住民の集まる場の創造によ るコミュニティ形成が期待できる。

(3)コミュニティ・ワーク

「コミュニティ・ワーク」とは、地域に根ざしたまちづくりの取り組みで、地域の人、名産物、 空間を有効に活用し、新たな物の創発を促進する。そこでは、外から来た人たちも出店すること ができ、新しいコミュニティの創出が期待できる。更に、川越の各地にある空き地を多様なお店 がそろうマルシェなどを行うことにより、街を歩くきっかけを作る。地イベントは単発的だが、 街全体で構成される市民祭りのようなもので、川越を活気づける回遊性の高いイベントとなる。

(4)エリア・マネジメント・チーム

 現在、自治会の現状は高齢化と加入率の低下が進んでいるため、NPOや市民団体など特定の 地域に縛られない新たなつながりを作ることが必要である。自治会などの大規模なコミュニティ の地域活動では、「誰かに任せる」という姿勢では結局「誰もやらない」ということになってし まう可能性があるため、ひとりひとりが協力し、自分たちの住む環境について考える機会を「み んなで担う」ことにより地域社会の機能を高めることが重要である。

 川越市最大の住民組織である「川越市自治会連合会」によって、平成25年6月現在で287 の自治会が加入し、22の支会をもち、交通安全、環境美化、青少年健全育成、社会福祉、防災・ 防犯等の諸問題を解決するため積極的に取り組み、市の依頼を受けて市民の生の声を行政に反映 させるなど、行政と一体となって「安全・安心のまちづくり」に努めている。また、埼玉県の調査によると、現在川越市では95の NPO 団体が存在し活動を行っている。 しかし、川越市自体では調査を行っていないため、川越と NPO 団体は協働していないことが現 状である。

 そこで、地域のつながりが生まれるきっかけを大きく分けて、3つに分類する。1つ目は、地 域で生活することで生まれるつながり「向こう三軒両隣」である。自然と顔を合わせる回数の多 くなるため、会話がうまれ親しくなると考えられる。2つ目は、地域の地縁組織に参加すること によって生まれるつながり「町内会・自治会」である。町や字区域、小学校単位で区別されるこ とが多いが、川越市の自治会への加入率は年々減少しており、平成21年度では81.8%で加 入する場合、住む圏域内に限定されていることから選択をできないことが特徴である。3 つ目は、 特定の目的を果たすために生まれるつながり「NPO、ボランティア団体」である。目的によっ て多様に範囲は変化し、一部地域に限定されるものや広範囲に広がるものもある。私たちが提案する「地区単位チーム」はこれら3つのつながりと、特に2つ目の町内会や自治 会の「つながり」を生かし、高齢化社会の進行に伴う自治会会員の高齢化、役員等担い手不足な どによる活発な活動が行えない自治会をサポートするものである。

3-4「川越人(かわごえじん)」育成プロジェクト ~育てる~

 川越にはすでには、地域に根ざした自治会や町内会があり、また、様々なテーマを掲げた90 を超えるNPO団体が存在する。このような地域の担い手は、まさに川越の貴重な地域資源であ ると同時に、今後も更なる地域の担い手を育成することが重要となる。しかしながら、持続的に地域の担い手が生まれ、成長していくためには、内発的な仕組みの有無が重要となる。 そこで、「川越人」育成プロジェクトでは、川越で活動するNPO団体や市民組織のネットワ ークを活用しながら、まちづくりや環境問題、コミュニティデザインや地域福祉等、様々なテー マについての学習プログラムを開設する。そして、上記のプログラムの卒業生は、川越で活動す るNPO団体や市民組織の取り組みに参加し、実践的な学びを行う。さらに、実践を積み重ねた 卒業生が、今度は講師となりプログラムの参加者たちと一緒に川越での様々な取り組みを創り出していくことで、川越では時代の変化に対応下様々な取り組みが内発的に展開されていくことが、 「川越人」育成プロジェクトの目的の一つである。

 また、川越の象徴とも言える蔵の維持、修復に必要な技術を継承する人材や、伝統的な産業や 文化の後継者の育成も、「不易流行都市」にとって重要である。これらの人材を育成するために は専門的な知識や経験が必要であり、「蔵の会」をはじめとする、専門家等とのネットワークを 有する組織との連携が必要となる。実際、「蔵の会」では、既に、埼玉県内の他のNPOからと 協力し、木材専門家である大工を招き、様々な人が参加出来るワークショップ形式のイベントで ある「エコプロダクツ展」を実施している。このような活動を持続させることで、人材育成、後 継者作りはもちろん、技術者やNPO団体、住民の持続的な連携体制を作ることが期待できる。


4章 まとめ

 現在、日本の多くの地域社会においては、コミュニティの希薄化や財政難、少子高齢化、様々 な課題がある。また、人口減少による、空き家・空き店舗・空地の増加も問題視され、防犯・防 災面での問題も生じている。しかし、この財政難と言われている社会の中で重要なのが、本論文 でも述べているように、一見無用に見える「スキマ」である。その街の変えてはいけない「不易」なものを大切にしながら、潜在的資源を活用して、地域の 特性や時代の状況に対応した「流行」を生み出すことにより、様々な人、つまり、観光客だけで もなければ、住民だけでもなく、地域の担い手になる可能性のある多くの人にとって、魅力のあ る地域となることが出来るのではないであろうか。


参考文献

・角谷嘉則「株式会社黒壁の起源とまちづくりの精神」(2009)創成社 

・佐藤滋編著「まちづくり市民事業新しい公共による地域再生」(2011)学芸出版社 

・出島二郎「長浜物語 町衆と黒壁の一五年」(2003)まちづくり役場 

・山崎亮「ソーシャルデザイン・アトラス:社会が輝くプロジェクトとヒント」(2012)鹿島出版会 

・川越 NPO(http://www.pref.saitama.lg.jp/site/kenminseikatsutantou/kawagoehiki-npo.html) ・社会法人 川越青年会議所(http://www.kawagoe-jc.or.jp/) ・川越商工会議所(http://www.kawagoe.or.jp/)

・NPO 法人 川越蔵の会(http://www.kuranokai.org/home.html) ・まちづくりブートキャンプ(http://areaia.jp/item/bootcamp-214.php)



日本公共政策学会・学生政策コンペ 2012 in 篠山

「シビック」が溢れる地域社会 -埼玉県宮代町の取組みを通して考える、大都市近郊における農村地域の再生-


「シビック」が溢れる地域社会 

ー埼玉県宮代町の取組みを通して考える、大都市近郊における農村地域の再生ー

大東文化大学環境創造学部 齋藤博ゼミ 
代表者:黒澤岳、発表者:岩森元、黒田志乃、島根佑望 
参加者:関谷友宏、宇部智足、望月千絵、丸茂京平、桜井翔太、真貝尚樹、鈴木穂奈美


1章 はじめに(梗概) 

1-1 研究の目的

 現在の農村・地方都市の抱える課題の一つは、人口減少や高齢化に伴う「農」の疲弊と言え る。その結果、「農」を基礎とする地域と都市との格差が拡大している。しかしながら、「農」 がひっそりとでも息づいている地域には、豊かな自然や、今なお生き続ける歴史、文化、ある いは、人のつながりなどの潜在的地域資源が存在する。そこで、本論文では、農村・地方都市 の課題を解決するために、これらの潜在的資源を有機的に組み合わせ、活用することによる地 域再生の取組みを展開するための政策提案を行うことを目的とする。

1-2 研究の方法

 本論文は、埼玉県宮代町での調査に基づいた政策提案を行なう。宮代町は、美しい田園風景 が残る「農」が息づく地域である。そして、篠山市と同様に、大都市近郊に立地していること による無秩序な開発への脅威や人口流出といった課題を有している。宮代町の現地調査では、「潜在的資源の活用」、「地域コミュニティの再生」にポイントを置き、文献調査、現地踏査、 そして、宮代町の「農」のあるまちづくりの関係者へのヒアリング(H24.7.26、9.12)を行っ た。その調査結果を分析し、農村・地方都市を再生するためのポイントの整理している。さらに、篠山市の現地調査(H24.3.16)で得た知見を基に、篠山市において「農」を軸とした創造的なまちづくりを展開していくための政策提案を行っている。以下、本論文では、宮代町の概要(2 章)、宮代町の取組みの分析(3 章)、地域再生のポイントの整理(4 章)、そして、篠山市への提案(5 章)、まとめ(6 章)で構成されている。


2 章 宮代町の「農」のあるまちづくり 

2-1 宮代町の概要

 東京都心から北へ約 40km、埼玉県東部に位置し、面積 15.9km²(東西 6.3km・南北 6.7km の細長い形状)、人口約 3 万 3 千人(H.24)となっている。宮代町の周囲は、春日部市・久喜 市等と隣接している。また、地形は概ね平坦で、標高 8~11mの大宮台地北東部とその周辺に 広がる標高 6~7mの低地からなり、県内では最も標高が低くなっている。

 明治時代には東武鉄道が開業し、宮代町には、杉戸駅(現東武動物公園)・和戸駅・姫宮駅 が開設され、近代化が進み、町の産業であった農業は、重工業の発展や農業の機械化などの社会構造の変化と共に大きく変化し、兼業農家が急速に増加した。また、昭和 40 年代以降、大規模な団地造成などの開発が活発となり、農地、農家戸数も減少したが、宮代町においては、 現在もなお、多くの田畑が残る田園都市としての魅力を有している。

2-2 「農」のあるまちづくりの概要

 町民意識調査において、「今後も町に住み続けたい」という積極的な意見が多く、その理由として、都市近郊にありながらも、自然環境が豊かな点が挙げられている。それは、大自然の 豊かさではなく、田畑を中心とする「農」が生み出す環境であり、この環境を維持していくために「農のあるまちづくり基本計画」(H.10)が策定された。その内容は、現在も残る田園風 景を地域資源と捉え、物理的な環境の維持はもちろん、産業や教育、福祉など、様々な分野に おいて、農のある環境を次世代へ引き継ごうとしていた。そして、現在では「農」のあるまち づくりという考え方が市民に定着するとともに、具体的な取組としての「新しい村」を創出し、 様々な取組みを展開している。この「新しい村」は、農家と協力しながら、農作物を扱う市場 の運営、農作物の販路の拡大、耕作放棄地の再生、農家の経営支援等を行なっている。

 さらに、「農」のあるまちづくりを宮代町全体の総合的な取組とすることによって、宮代版 「コンパクト・シティ」の実現を目指し、自然が豊かな住みやすい環境を実現している。


3 章 「農」のあるまちづくりの取り組み

 本章では、文献調査や現地踏査、ヒアリング等で空明らかとなった宮代町の「農」のあるまちづくりについて、計画を具体化する中核組織である「新しい村」を中心とした取組について の整理(1取組みの概要:目的、成果、担い手等 2注目すべき特徴、課題等)を行う。

3-1 景観資源の活用(宮代版コンパクト・シティによる田園風景の維持・再生)

(1)「コンパクト・シティ」とは、都市的土地利用の郊外への拡大の抑制を前提とし、効率的 で、生活に必要な諸機能を持つ持続可能な都市をつくるものでもある。宮代町においては、こ の考えのもと、「農」という地域資源を現代的に活用するための土地利用を行っている。この考え方を基礎として、田園風景の維持、再生に取り組んでいる。具体的には、市街化区域を駅 周辺の範囲に限定することにより、無秩序な宅地化の進行を防ぎ、コンパクトな市街地形成を 実現する土地利用を行なっている。さらに、人口増加に寄与する住宅の供給に関しては、「量 より質」に重きを置き、戸建住宅用の宅地開発を行っている。その結果、東京で働くサラリー マンが、四季を感じることが出来る田園風景のある豊かな暮らしを求め、この地域に移住する という動きが見られている。

 また、「農」のあるまちづくりを推進する中心的組織である「新しい村」が耕作放棄地とな っている土地を地主から借り、新規就農者へ貸し出しを行なっている。具体的には、耕作放棄 地の情報を集約した「耕作放棄地バンク」があり、新規就農者にとっての窓口となっている。 その結果、後継者のいない農家の農地が耕作放棄地になることを防ぎ、宮代町の豊かな「田園 環境」の維持を実現している。

 (2)「農」のあるまちづくりは一定の成果を上げているが、商業を営む町民からは、「なぜ商業 には支援しないのか」という意見も町役場に寄せられている。しかしながら、「耕作放棄地の 問題は、農を基礎とする宮代町にとって非常に重要な課題である」との認識のもと、最大の地 域資源である「田園環境」を守ることにより、地域の持続性を担保していると言える、

 現在の就農者は全町民の 6%と非常に少ない。したがって、「田園環境」の維持、再生に取組 みを実現するためには、新規就農者を増やしていくことが必要となる。

3-2 農業ビジネス(様々な方法により「農」を売り出す)

 (1)「農」は重要な地域資源であったが、耕作放棄地の増加などにより、衰退しつつあった。そ こで、行政が中心となり、市民や農家との協働により、特産品の開発や、新しい販路の開拓を 行い、農業の振興を行なっている。その核となる「新しい村」は、ホームページやポスターなどのメディアを活用し、イベントや特産物の宣伝を行うことで、今まで地域に関心の薄かった 人の関心を喚起している。また、宮代町では、農業による収益の増大を図る取組みとして、「グリーン・ツーリズム」 を実施している。耕作放棄地を利用した、市民農園「結の里」や、農業体験により、一般住民 が農業に触れる機会を生み出している。また、参加した人の口コミなどにより、他の地域への 情報発信が行われ、その知名度が向上している。さらに、直売所である「森の市場・結」を通 して、新鮮な農産物や特産物を販売し、また、新鮮な食材を使った料理を提供するレストラン である「森のカフェ」は、地元の農産物への関心を促し、地産地消を実現している。

 (2)「新しい村」を中心に行われている農業ビジネスは、農家を含む市民が運営の担い手となることで、地域に根付いた取組みへと発展している。その一方で、ビジネスとしての農業の魅力 をさらに高めるためには、人材の確保、付加価値の創出、情報発信の充実が必要と言える。 

3-3 多様な学習プログラム 

その 1 (教育を通して将来の担い手を育む) 

(1)子供達の農業への関心を促し、将来の農業の担い手を生み出していくこと、そして、「農」 や地域への関心を育むことを目的とする学習プログラムを提供している。具体的には、食の大 切さや安全性、収穫する喜びを体験する学習プログラムとなっている。町内や東京都内の小学 生を対象として、「新しい村」、NPO、そして、地域の農家の協力を得、学習プログラムが実施 されている。この学習プログラムは、「農」の多面的な要素を生涯学習活動に展開し、人間と環 境の関係について学び、体験する学習プログラムが展開されている。毎年実施される「新しい 村」と NPO の連携による「田んぼの学校」という田植え体験では、食育だけではなく、農に対 する意識の変化や、農への関心の促進が図られている。 

(2)「田んぼの学校」は、参加者が「農」を知るプロセスを通して「農」の魅力を発見し、宮代 らしさや食の大切さを実感する機会となっている。学習プログラムに参加した子供たちが、農 への関心を高めていること、さらに、子供を通して、その両親が地域に関心を持つようになる などの成果が挙げられる。その一方で、直接的に新規就農者の増加に繋げることは難しく、次 節で述べるような実践的な学習プログラムが同時に展開されている。

3-4 多様な学習プログラム 

その 2 (実践的プログラムを通して専業農家を増やす) 

(1)農業で生計を立てることの難しさや、農業を始める際の初期費用の大きさなど、就農へのハ ードルが高くなっている。宮代町では、そのハードルを低くし、新規就農者の増加を目指し、 地域が連携し、学習プログラムの提供、農地の賃借などの支援体制が整えられている。その結 果、地域の農業の担い手となる新規就農者を生み出すことに成功している。成功のポイントと しては、地元の農家の協力により、農機具や作業場の貸し出しや農業技術指導を受ける「新規 就農里親制度」という、地域密着型の新規就農者の支援制度が挙げられる。また、実践研修である「ルーキー農業塾」では、農業知識や技術、出荷販売のノウハウを身 に着け、経営を安定させる能力を養うことで、持続的に営農出来る人材の育成に成功している。

 (2)この「ルーキー農業塾」は、行政だけで行うことは難しく、地元農家や土地所有者などの協 力により、具体的な支援を行うことが可能となっている。つまり、地域の様々な担い手の連携 により、新規就農者を創出しているのである。「ルーキー農業塾」などの学習プログラムで新 規就農者を募っているが、昨今の「農」に対する関心高まりから、さらに情報発信を進めるこ とで、より多くの希望者が集まると期待される。

3-5 協働の布陣(「新しい村」を核とするフォーメーション)

(1)宮代町が進める「農」のあるまちづくりは行政主導であるが、従来のトップダウン方式では なく、多様な主体が、まちづくりに対する多様な関わりを持ちながら進められている。その結 果、宮代町の潜在的資源を活かしたまちづくりを進めるており、住民の地域への愛着を育む取 組みへと昇華している。新しい村を核とした、多様な協働の取組 が多くある。ここでは2つの事例を紹介する。

 1つ目は、「町民主体による公衆トイレの改修」である。宮代町は市民活動が活発であり、 この取組は特に活発に行われたものである。この取組は、誰もが利用する公衆トイレの改修に 際して、町民の意見を積極的に取り入れ、整備することで、町民がまちづくりに参加する機会 を創出している。計画づくりの段階から、積極的な市民参加を図ることによって、新旧住民の 隔てなく、地域への愛着を育むことに成功している。

 2つ目は、町の将来像となる「第 4 次宮代町総合計画」の策定プロセスにおいて、「総合計 画フォーラム」と題した市民会議を開催し、行政や専門家と町民の間における有効な議論を展 開している。そのために、この会議で使用する資料は、町民の目線に立って作られており、専 門用語を使わず、町民に分かりやすいものとしている。会議の進め方についても、町民が意見 を出しやすいように「ワールド・カフェ(World Café)」方式を採用している。 

(2)何か新しい取組を始める時に、立ち上げの段階においては、行政が中心となるが、取組が軌 道に乗ると、町民や企業が主体となって進めている。さらに、事業を推進上の課題が大きい時 には、行政が軌道修正を行うといった、柔軟な対応を行うことで、前例の無い、新しい取組み が実現している。「新しい村」の取組みに町外から参加者も増加傾向にあるが、その多くは町 内の住民であり、その情報発信や受入体制が十分だとは言えない。町外との連携を多様にする ことで、更なる定住人口の増加や地域の活性化に寄与することが期待される。

3-6 多様な主体の多様な関わり(ファン/サポーター/コミュニティの作り方) 

(1)宮代町では、多様な人が、多様な地域への関わり方を実現している。具体的には、宮代町を 好きな「ファン」をつくる農業体験の実施、そして、宮代町の取組みを支援(≒参加)する「サポーター」に対する窓口としての直売所の運営を行なっている。さらに、地域への関心を高め、 愛着を育んでいく「コミュニティ」が、住民参加による公衆トイレづくりなどを通して実現し ている。そして、これらの取組みの中心には、町役場が主導で設立した株式会社である「新し い村」の存在があり、「新しい村」の職員、野菜を提供する農家、それを購入する町民、そし て、直接的、間接的な支援を行う行政が連携することで様々な取組みが成り立っている。

(2)今後、更なる少子高齢化が進み、これらの取組みの基礎となっている農業を支える就農者が 減少することが予想される。そこで、一人でも多くの宮代町を愛する人を増やすために、農業 を軸とした更なる結びつきを築くことが重要と言える。


4 章 大都市近郊における「農」のあるまちづくりについての考察

 本章では、3章で述べた宮代町での取組みから、大都市近郊における創造的な「農」のある まちづくりにおけるポイントを「シビック(Civic)」をキーワードに抽出する。「シビック」は、 「市民の... 」(例えば、Civic rights)、「都市の...」(例えば、Civic Center)、「公共の...」(例 えば、Civic interest)といった使われ方をする言葉である。それは、単に「地域の住人」とい うだけではない、より自律的な存在としての「市民」の可能性や、多様な主体が担い手となる 創造的な「地域社会」のあり方を意味するものである。

4-1 Civic Pride(地域への誇り)を育む

 宮代町では、多様な主体が、地域に対して多様な関わりを持ちながら、その取組みを進めて いる。「新しい村」は、いわゆる、第三セクターとして誕生した組織であるが、現在、その運 営については、宮代町の町民が重要な役割を果たしている。直売所では地元農家が持ち寄った 農作物が販売されており、価格も農家自身が決定している、そして、その農作物の多くは、宮 代町民が購入している。これは、最近注目されている「地産地消」の実践であり、生産者、消 費者の双方が宮代町への想いを強くする機会となっていると言える。また、地元の NPO 法人で ある「水と緑のネットワーク」は、「新しい村」の水田を借り、宮代町外の小学生向けの体験 学習プログラムを提供している。これは、活動に参加している住民自身が、宮代町の持ってい る豊かさに対する誇り無しには生まれ無かった活動と言える。

 伊藤(2008)は、「市民が都市に対してもつ誇りや愛着をシビック・プライドと言うが、日 本語の郷土愛とは少々ニュアンスが異なり、自分はこの都市を構成する一員でここをより良い 場所にするために関わっているという意識を伴う。つまり、ある種の当事者意識に基づく自負 心と言える。」と述べている。つまり、自らが属している地域社会に誇りを持ち、まちづくり や 市 民 活 動 に 積 極 的 に 参 加 し 、 都 市 の 課 題 を 解 決 し よ う と 考 え て い る 人 の 多 く は 、「 シ ビ ッ ク ・ プライド」を備えていると言える。また、「シビック・プライド」を育むためには、地域らし さを大切にすること、自己実現の機会を得ること、住みよい環境であること、コミュニティが 活発であることなどが重要であると考えられる。

4-2 Civic Creativity(市民の創造性)を地域の創造性へ変換する

 宮代町の取組の中に、「四季楽」と名付けられた市民参加によって作られた公衆トイレがあ る。この取組みは、町民の利用頻度の高い公衆トイレを町民主体で計画、改修することで、行 政単独では作ることが出来なかった、多くの市民に愛される公衆トイレを作ることに成功して いる。言い換えれば、行政との協働の取組みにおいて、市民一人ひとりが持っている課題を解 決する能力によって、より質の高い公共サービスを実現したと言うことが出来る。

 Landry は、その著書(2000)の中で「公益に資する想像的な課題解決能力」を「シビック・ クリエイティビティー(Civic Creativity)」としている。この「シビック・クリエイティビテ ィー」は、都市の抱える問題を解決し、さらに、潜在的な資源を顕在化させ、より魅力的な都 市環境を実現させることの原動力となる。言い換えれば、市民一人ひとりが持つ、新しい着眼点で地域を捉え直し、今までにはない斬新なアイディアを生み、地域の課題することが地域再 生の鍵となるということである。さらに、宮代町の「四季楽」における市民参加の取組みは、 その後、町役場の建て替えにも生かされ、市民の創造性を活かす機会を拡大している。

4-3 Civic Entrepreneurship(行政の起業家精神)を発揮する

 宮代町では、「世界のどこにもないまちを創る」ことを目指し、前例のない様々な取り組み を行っている。例えば、上述の「新しい村」の取組みも以外においても、「笠原小学校」の建 設では、そのユニークな外観もさることながら、そこで学ぶ子ども達が裸足で元気よく走り回 れるような空間をつくり、のびのびとした教育環境を実現している。また、「第 4 次宮代町総 合計画」の策定のプロセスにおいては、町民の意見を積極的に取り入れることにより、行政や 専門家とともに町民自身が町の将来像を描いている。

 Leadbeater and Goss(1998)によると、「シビック・アントルプレナーシップ(Civic entrepreneurship)」とは、「官僚主義的な傾向が強い公的セクターにおける起業家精神のこと で、公的セクターの有する権限や目的、あるいは、組織の文化を刷新する取り組み」のことを としており、その重要性を提起している。それは、官民の別を問わずに必要な資源や人材を組 み合わせることによって、新しい取り組みを可能とし、より社会的な価値が高く、有効な公共 サービスが実現することである。


5 章 篠山市への提案

5-1 篠山市の課題 

(1)「農」のある暮らしの誇りを高めること

 農地は市域全体の 14%を占め、農業を基幹産業と位置づけている。農産物は丹波篠山産 というブランドイメージが象徴的であり、丹波篠山黒豆や、猪肉(ぼたん鍋)など、全国 的に知名度が高い。しかし、都市部への人口流出や農業離れによる後継者不足と農業従事 者の高齢化が進み、それに伴う耕作放棄地の増加が毎年続いている。また、篠山に限った 話ではないが、農業は斜陽産業であるという先入観や、収入の不安定さ、自然環境相手の 厳しさなどというイメージが先行しがちである。このイメージを様々な創意工夫で解消に 努めることが必要である。

(2)人口の減少に伴い縮減した地域活力を育むこと

篠山市の人口は、平成 13 年をピークに減少傾向である。人口減少と同時に高齢化も進 み、コミュニティの維持や地域活力に影響を及ぼしている。地域活力がこれ以上に失われ ることは、今まで続いてきた地域伝統の継承が難しくなり、また、歴史や文化そのものが 失われる可能性も否定出来ない。また、産業の衰退や森林・農地の荒廃も懸念される。 3様々な資源を動員した地域運営を行うこと平成の大合併の先駆事例となった篠山市であるが、合併した4町は歴史的にも、篠山藩 時代からまとまりを持っており、合併後は一体となって観光資源の活用やごみ処理場等の 効率化などの課題解決を行なっている。その一方で、合併特例債を活用した大型施設の建設等により圧迫された財政の強化を目指し、篠山再生計画を策定し、あおの取組みを進め てきた。そして、平成 22 年から普通交付税の合併算定替えの特例による上乗せ額が段階的 に減少することから、より一層の効率化が必要となる。また、中心部と周辺部との格差を 縮め、住民サービスの更なる向上のためには、多様な主体との協働による更なる資源の動 員が必要となると考えられる。

5-2 篠山市への政策提案 

(1)地域への愛着を育む

 篠山市では、旧城下町において「伝統的建造物群保存地区」が制定されており豊かな景観が 形成されている。篠山市の魅力を更に高めるためには、篠山の玄関口である篠山口駅から中心 市街地に向かう沿道に広がる田園風景を維持再生することが考えられる。しかし、現状では、 ロードサイドショップが立地し、田園風景の魅力を十分に感じることは難しい状況である。篠山の田園風景を魅力的なものとするために、まず、ロードサイドショップの駐車場等を緑 化し、商業施設と田園風景の調和を図ることが考えられる。そして、何よりも大切なことは、 この田園風景を生み出している「農」を元気にすることである。

 田園風景の維持、再生を行うことは、農家以外の一般市民にとっても、田園風景の中に四季 を感じ、豊かな住環境を実感することに繋がる。さらに、豊かな歴史と文化を感じる街並み、 市域北部の豊かな自然、そして、人の手によって大切に育まれた田園風景が有機的に繋がるこ とで、篠山の魅力はより大きなものとなる。その魅力は、篠山市民の地域への愛着を育むだけ ではなく、篠山から1時間の距離に位置する大阪や神戸で働く人々にとっての「住処」として の魅力を高めることも期待できる。

(2)市民の創造性を地域の創造性へ転換する

 農業従事者と都市住民(篠山市に市街地の住民も含む)は、生産者と消費者という関係に硬 直化した結果、消費者は生産に対する関心が薄まり、また、農業従事者は農作物を作り出す喜 びを実感し難くなっている。この硬直化した関係を変えるためには、農業従事者の協力を得な がら、都市住民が「農」に関わる機会を創ることが重要となる。

 例えば、都市住民の日常生活の中で農を取り入れることが出来るミニマム栽培(プランター 等での農産物の栽培)や、学校教育に於ける農業体験の実施などが考えられる。このような学 習プログラムで重要となるのは、プログラムの策定、実施における農業従事者の関わりである。例えプランターでの栽培であっても、おいしい野菜を作ることは難しいので、農業従事者が 野菜栽培のマニュアルを作成し、インターネット等を活用した通信教育を行う。あるいは、小学校の授業での臨時講師となり、子供たちと直接接することで、「生産者-消費者」という関 係を超えた新しい関係性が生まれることで、「農」の意味が変わることが期待される。

 また、農事業従事者と都市住民との協働を発展させることも重要である。例えば、市民農園 や共同農場において、食の安全・安心や地域コミュニティに関心のある都市住民に対して、農 業従事者が栽培の指導を行い、収穫した農産物を使用したオーガニック料理の教室を展開する ことなども考えられる。このような取組みにより、都市住民は、地産地消を実現し、農業や地 域社会への愛着が深まりっていく。また、農業従事者にとっては、消費者との間に今までにな い関係を構築することで、地域社会の担い手としての可能性が広がることとなる。

 さらに、より、実効性のある取組として、農業を生業とする新規就農者のための人材育成を 行うプログラムが考えられる。一般的には、農業は生業として十分な収入が得られない職業だと考えられがちであるが、多くの専業農家は、自らが営む農業という生業を魅力的なものとす るために、作物の栽培に関することだけではなく、農作物の販路拡大や付加価値を高めるため の加工などに知恵や工夫を凝らすことに、日々、奮闘している。

 しかしながら、専業農家になるためのハードルは多くあり、専業農家として農業に従事する ことは容易なことではない。農業を始める際には様々な資源が必要となる。農業に関する知識、 農作業をするための農機具、耕作地となる農地、農作物を売るための販路などが挙げられる。 これらの資源を、一人で全て揃えることは簡単ではないが、地域の様々な人の協力を得ること によって、超えなくてはいけないハードルは格段に低くなる。例えば、農業を引退した人によ る農業技術指導や、行政による耕作放棄地の仲介、「新しい村」のような中間支援組織による 農産物の販路の確保などが考えられる。つまり、新規就農者を「地域で育てる」体制をつくる ことが重要となる。

(3)行政の起業家精神を発揮する

 町村合併により、地域運営の効率化が図られた一方で、より決めの細かい充実したサービス を提供するためには、行政が地域内外の様々な担い手との協働を進めていくことが必要である。 まず、「新しい村」のような中間的な組織を設立することにより、多様な主体を繋げることが必要である。この組織を中心としたパートナーシップは、農家、民間企業、市民(組織)、 来街者などから形成される。例えば、この中間組織が行う取組としては、宅食事業が考えられ る。農家が作った作物を中間組織が仲介し、宅食事業を行っている民間企業に販売する。その 民間企業は、主に篠山市在住の独居老人宅や老夫婦宅をターゲットに訪問する。普段はあまり 関係を持つ機会が少ない地元企業と住民の間に新しい関係を生むことで、今まで、行政の福祉 部門が担ってきた独居老人や高齢者世帯が抱える問題を、地域で解決することとなる。


6章 まとめ

 現代社会は、価値観の多様化により、一人ひとりが望む幸せの形が多様になっている。また、 社会状況が絶え間なく変化することにより、一人ひとりが直面し、解決しなければいけない課 題も様々である。その結果、今までの仕組みや方法だけでは、多くの人が豊かさを感じる地域 社会を実現することが難しくなっているのである。そこで、重要となるものは、本論文で述べ てきた「シビック」という概念である。市民が地域社会に誇りや愛着を持ち、市民一人ひとり が潜在的に持っている創造性を活かし、多様な主体による協働の営みを進めて行くことによっ て、地域を再生し、豊かな地域社会が実現していくのである。

参考文献

・齋藤甲馬の本制作委員会 編著「齋藤甲馬と宮代 世界のどこにもないまちを創る」(2011)齋藤甲馬の本制作委員会 

・「篠山市総合計画 住みたいまち ささやま-人と自然が調和した田園文化都市-」(2001)篠山市 

・「第2次篠山市総合計画」(2011)篠山市

・佐藤滋 編著「まちづくり市民事業 新しい公共による地域再生」(2011)学芸出版社

・シビックプライド研究会 編著「シビックプライド 都市のコミュニケーションをデザインする」(2008)宣伝会議 

・「『農』のあるまちづくり基本計画」(1998)宮代町

・「みどり輝くコンパクトシティ 第4次宮代町総合計画前期実行計画」(2010)宮代町

・「都市データパック 2012 年版」(2011)東洋経済新報社

・Landry, C. (2000) A new planning ethos of civic creativity, Town & Country Planning, vol69, no.9, pp.259-261. 

・Leadbeater, C. and Goss, S. (1998) “Civic Entrepreneur”, Demos: London